イタリア語で「サラブレッド」を意味する「Purosangue(プロサングエ)」を名乗るフェラーリ史上初の“4ドア4シーター”という新しい提案は、そのスタイリングやポジショニングから、これまでには無いオリジナリティ溢れるモデルとして、登場以来、フェラーリであるが故に様々に論じられてきましたが、フェラーリの誇る自然吸気V型12気筒エンジンの極上フィールと圧倒的な動力性能や進化した4WDと最新のアクティブ・サスペンションの組み合わせによる正確無比でコントローラブルなハンドリング、そして、均整が取れていて優雅なエクステリアから放たれる存在感など、これまでスーパースポーツカーを専業としてきたフェラーリが新たに創り上げた「プロサングエ」がどういったモデルであるのか? を中心にご紹介します。

フェラーリにおける「プロサングエ」のポジショニング

フェラーリは言わずと知れたスーパースポーツカーのメーカーですが、そのラインアップは多岐にわたっていて、フェラーリが言うところのスポーツカードライバーに向けた「Roma(ローマ)」シリーズからフラッグシップモデルの「12Cilindri(ドーディチ・チリンドリ=12チリンドリ)」、「296」シリーズ、「SF90」シリーズといったレーシングパイロット向けのモデルが続きます。
その中において「プロサングエ」は興味深いことに「ローマ」と「12チリンドリ」の間にポジショニングしていて、実際に公表されている0-100km/hの加速は「プロサングエ」が3.3秒と「ローマ」の3.4秒を凌駕しています。
つまり、一見するとSUV(Sport Utility Vehicle=スポーツ・ユーティリティー・ビークル)ルックに見えても、実際は紛うことなきフェラーリのスーパースポーツカーであって、フェラーリが「プロサングエ」をSUVと言わない訳がそこにはあると感じます。

フェラーリの新しい提案、初の4ドア4シーターモデル「プロサングエ」の凄さとは?【自動車業界の研究】
プロサングエのポジショニング(12チリンドリ発表会より)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

フェラーリが新たに提唱する「プロサングエ」と至高の自然吸気V型12気筒エンジン

フェラーリの4シーターモデルと言えば、2011年に発表された「FF=Ferrari Four(フェラーリ・フォー)」、2016年にその実質的な後継モデルにあたる「GTC4 LUSSO(ルッソ)」が思い浮かぶことと思われますが、「プロサングエ」ではさらに4ドアというところがフェラーリ史上初で、そのプロポーションはこれまでには無いデザインで新しいモデルであることを感じさせます。
そして、いずれのモデルもバンク角65°の自然吸気V型12気筒エンジン(F140系)をフロントミッドシップに搭載した4WDであることは共通していて、ドアの枚数や「プロサングエ」の車高の高さを除けば、おおよそ近しいパッケージングを持っています。
「プロサングエ」のエンジン(F140IA型)は総排気量が6496ccで「FF(F140EB型)」や「GTC4ルッソ(F140ED型)」といった、いずれも6262ccのエンジンよりも234cc拡大されていて、その内訳としてボア径は変わらず94.0mm、ストローク長が78.0mmと従来の75.2mmから2.8mm延びていることによります。
それに伴い最高出力も725PS/7750rpmと「GTC4ルッソ」の690PS/8000rpm比で35PSのパワーアップ、最大トルクも716Nm/6250rpmと「GTC4ルッソ」の697Nm/5750rpm比で19Nm拡大、圧縮比も13.6:1と「GTC4ルッソ」の13.5:1比で0.1高圧縮比化されていて、さらに最大トルクの80%を2100rpmから発生します。

総じて「プロサングエ」のエンジンは最高出力の発生回転数が250rpm下がっていることからも(燃焼圧力≒)トルクの増加によってパワーアップしていると言えますが、傾向としては従来の回転数で出力を絞り出す設計から、ストローク長および排気量の拡大によってトルクを向上させる設計の趣に変更されたことによると言えて、車両が乾燥重量で2033kgと「GTC4ルッソ」の1790kgよりも243kg増えているため、エンジンの特性としてはとてもリーズナブルで、それでいて「プロサングエ」は最高速度310km/h超を実現、0-100km/hの加速は3.3秒と「GTC4ルッソ」の3.4秒よりも0.1秒速いのですからパフォーマンスはさらに進化しているのだと恐れ入ります。

つまり「プロサングエ」は「GTC4ルッソ」より全長が51mm、全幅が48mm、全高が206mm、ホイールベースが28mmそれぞれ拡大されていて(GTC4ルッソ=全長4922×全幅1980×全高1383mm、ホイールベース2990mm)、特に全高が206mmも拡大されていることから、異なるアイデンティティを持った真新しいコンセプトから生み出されていることがスペックからも理解できます。

ドライビングフィールにおいて「プロサングエ」用のエンジン特性がわかりやすいシチュエーションは、ゆったりと走るクルージング等でエンジンの低中速回転域を多用する状況で、いわゆる“もったり”感が出ないパワーの出方、チューニングであることが挙げられますが、そもそも従来から6000cc超の大排気量エンジンですのでドライバーから不満が出ることはそうそうないと思われるものの、そこに一切の妥協が無いのが如何にもフェラーリらしいといったところでしょうか。

フェラーリの新しい提案、初の4ドア4シーターモデル「プロサングエ」の凄さとは?【自動車業界の研究】
プロサングエ(フロントミッドシップに搭載されたF140IA型_V型12気筒エンジン)(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)
フェラーリの新しい提案、初の4ドア4シーターモデル「プロサングエ」の凄さとは?【自動車業界の研究】
FF〔Ferrari〕(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)
フェラーリの新しい提案、初の4ドア4シーターモデル「プロサングエ」の凄さとは?【自動車業界の研究】
GTC4 LUSSO〔Ferrari〕(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

ちなみに「プロサングエ」と同じ自然吸気V型12気筒エンジンを搭載する最新のフラッグシップモデル「12チリンドリ」のエンジン(F140HD型)と「プロサングエ」のエンジンをスペックから比較すると、総排気量やボア径とストローク長は全く同じですが、「12チリンドリ」は圧縮比を13.5:1と「プロサングエ」より0.1下げて高回転化が図られていて(高回転高出力化を図る際に圧縮比を下げてノッキングやデトネーションなどの異常燃焼を抑制する設計上の常套手段で、シリンダーヘッドやピストン等で構成される燃焼室形状からの容積で圧縮比を調整)、最高出力は実に830PS/9250rpmと「プロサングエ」よりも105PSも大きいものの「12チリンドリ」の最大トルクは678Nm/7250rpmで「プロサングエ」の方がトルクは38Nmも大きく、しかも発生回転数が6250rpmと1000rpmも低いので「プロサングエ」のキャラクターに合致したトルク特性が与えられているわけですが、フェラーリがこのようにモデル毎にエンジンのチューニングについて、各々の狙いを定めて設計をしているところからも最高峰と言えるブランドオリジナリティの根幹を伺い知ることができます。

フェラーリの新しい提案、初の4ドア4シーターモデル「プロサングエ」の凄さとは?【自動車業界の研究】
12Cilindri〔Ferrari〕(画像=『CARSMEET WEB』より 引用)

いずれもどちらのエンジンが良いのか? という議論ではなく、それぞれのモデルにそれぞれがピッタリであるようにエンジンがチューニングを変えて設定されているところがフェラーリの魅力であって価値でもあると言えます。
エンジンについては、スタンダードブランドのモデルはもちろんのこと、高級車であっても昨今は合理化やコスト面から、要求されるパワーバンドやドライバビリティが異なるモデル特性であってもそれぞれに合わせてチューニングはほとんどせずに、同じエンジンをそのまま流用搭載されていることも多いため、フェラーリがフェラーリたる所以を象徴するトピックだと思います。