この解釈を使うと、量子世界の曖昧さを取り除き、古典的な物理学に沿って世界を理解することができます。

多世界解釈の考え方は量子世界の曖昧さを肯定する主流派の解釈と比べてシンプルであることから根強い人気があり、また並行世界の存在はSF的な好奇心を刺激するため、多くの作品にその概念が取り入れられています。

しかし多世界解釈には1つの大きな弱点がありました。

多世界解釈に従ってシュレーディンガーの波動方程式を解くと、確かに無数の並行世界が存在するかのような結果が得られます。

ですがその「無数」の並行世界中には「冷たいものが暖かいものを加熱する世界」や「通れないはずの壁をすり抜けてしまう世界」など、古典的な物理学の常識が通じない結果も含まれています。

場合によっては今回の研究のように「時間の矢が逆転しているように見える世界」も考慮される場合があります。

SF作品に登場する並行世界は登場人物が物語をスムーズに進行できるように、ある程度、元の世界の常識が通じるように描かれています。

しかし多世界解釈を「公平」に描くならば、摩訶不思議な現象がマクロな世界に顕現している可能性も考慮しなければなりません。

にもかかわらず、私たちの記憶しているマクロな現実世界は、そのような摩訶不思議な状態に突入してはいません。

私たちが常に古典物理が優勢な世界線を引き当て続けている「豪運」の持ち主である可能性も、なくはありませんが、おそらくそうではないでしょう。

観測によって生じる並行世界には、明らかに私たちの常識が通じる世界(古典的世界)が選好されていると考えるほうが妥当でしょう。

問題は、なぜ生成される並行世界にそのような偏りが生じるかです。

なぜ生成される並行世界には偏りがあるのか?

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あらゆる世界線が許容されるはずでしたが、関わる物体が多くなると古典物理学が優勢な世界線が大半を占めるようになりました/Credit:Philipp Strasberg et al ., arXiv (2024)