さらに化合物2に対して逆に電子1個を与えてみたところ、化合物1の状態に復元されることが示されました。

逆に化合物2から電子をさらに1個奪った場合には、炭素間結合が解離することも示されました。

このことは3つの状態を電子の出入りによって行き来させられることを示しています。

電子1個の共有結合は吸収する光の波長が異なる

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共有結合状態や結合が解離した状態にはない特性が出現しました/Credit:Takuya Shimajiri et al ., Nature (2024)

今回の研究によりほぼ1世紀前に提唱された炭素‐炭素の1電子の共有結合の存在が明確に実証されました。

研究者たちは、この新たな化学結合を利用することができれば、全く新しい化合物を作り出すことが可能になると述べています。

実際、化合物2の性質を調べるために光を照射したところ、1電子結合に由来する「1405nmの光(近赤外線領域)」を良く吸収することが判明しました。

このような吸収パターンは、電子が1個多い化合物1や、結合が解除された状態にはみられませんでした。

このことは電子1個の共有結合を持つ化合物2が独自の光学特性を持つことを示しています。

高度な科学は魔法と区別ができないとしばしば言われます。

結合状態を操作する技術は、物体の性質やありかたを操作する「魔法」となるかもしれません。

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参考文献

教科書が変わる!?炭素の新しい結合を実証!~弱い結合を活用した未踏材料創出に期待~(理学研究院 准教授 石垣侑祐)
https://www.hokudai.ac.jp/news/2024/09/post-1612.html

元論文

Direct evidence for a carbon–carbon one-electron σ-bond
https://doi.org/10.1038/s41586-024-07965-1

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。