パレスチナ問題に初めてふれる人にとっても、それなりに詳しい人にとっても、有益な仕上がりとなっている。現地調査を重視するジャーナリストが提供する情報は、非常に貴重だ。

ハマスについては、土井俊邦『ガザからの報告:現地で何が起きているのか』(岩波ブックレット)が、ガザで生活するパレスチナ人ジャーナリストのハマスに批判的な声を紹介している。複雑な情勢の中で生きるガザの人々のハマスに対する意見や感情は、単純に一枚岩であるわけではない。

パレスチナ問題を研究する学者の共著作集では、鈴木啓之(編)『ガザ紛争』(東京大学出版会)が充実している。パレスチナ問題を見守ってきた中東研究者が、多角的にガザ危機の性格を捉えていく。

編者によれば、現在進行形で変化する危機を扱うことに躊躇した一方、怪しい内容の言説が広がり続けていることに危惧をして、公刊を決断したという。現下のガザ危機は、パレスチナをめぐる現代的な「植民地主義」の問題に、あらためて注目を引き寄せた。

ガザを研究し続けてきたサラ・ロイ氏の著作の翻訳書だという意味では、昨年10月以降に執筆された著作ではないが、サラ・ロイ氏自身の序文と、翻訳者である三名のパレスチナ研究者の解説文が、昨年10月以降に執筆されて収録されているサラ・ロイ(岡真理・小田切拓・早尾貴紀訳)『なぜガザなのか:パレスチナの分断、孤立化、反開発』(青土社)は、「反開発」の視点から、現在のガザ危機を大きな視座で捉える重厚な書だ。

緊急復刊されたサラ・ロイ(岡真理・小田切拓・早尾貴紀訳)『ホロコーストからガザへ:パレスチナの政治経済学』(青土社)とあわせて読みたい。

 

なお現在進行形のガザ危機を扱っているわけではないが、現代的な問題意識をもって、最近になって公刊されたパレスチナ問題の歴史的検証の労作に、阿部俊哉『パレスチナ和平交渉の歴史:二国家解決と紛争の30年』(みすず書房)、中川浩一『ガザ 日本人外交官が見たイスラエルとパレスチナ』(幻冬舎新書)がある。