ペスト医師
ペスト医師は当時、大流行するペストに対して真っ向勝負を仕掛けた医師たちです。
一見すると正義の味方に見えるかもしれませんが、そこには現在では考えられないようなことも横行していたそうです。ここからはそんなペスト医師について解説します。
ペストの大流行
ペストとはペスト菌の感染によって起こる感染症の1つです。ひとえにペストとは言ってもリンパ節に現れる腺ペストやノミに刺されて現れる皮膚ペストや眼ペスト、稀に現れる肺ペストなどがあります。
その恐ろしい感染力と致死性によって、患者だけではなく医師などにも感染してしまう病気でした。事実、人口を大幅に減らすほどの被害を及ぼした最悪の感染症の1つです。
通称「黒死病」
ペスト菌に感染すると敗血症ペストを引き起こし、手足が壊死して局所的に黒くなってしまう症例が多く見られます。
原因は血液がペスト菌を全身に運んでしまうことにあり、最悪の場合は全身が黒いあざだらけになって死に至る病気だそうです。このことからペストは黒死病と呼ばれることもあったのだとか。
また、命を落とさなかったとしても急激なショック症状や昏睡、出血斑が発生することなどもあるなど、危険性は非常に高いようです。
特に14世紀頃に史上最悪とまで言われた大流行が発生し、人口が激減してしまう事態となりました。当時は世界規模で大流行したこともあり、その死者数はおおよそ8,000万人~1億人ほどと推計されています。
16世紀~17世紀のペストの流行
かつて人間は瘴気(しょうき)と呼ばれる概念を信じていたそうです。
瘴気というのは古代から19世紀頃まで信じられていた「ある種の病気を引き起こす悪い空気」のことだそうで、当時は身体が弱っている時にこの瘴気に晒されると病気になると本気で考えられていたのです。
ペストも同様で瘴気が原因の1つとされ、その悪い空気を取り込まないようにくちばし状のペストマスクが開発されたと言われています。
事実、ペストマスクのくちばし部分には強い香りのハーブや香草、藁などを詰め込んで対策していました。それらが瘴気から身を守ってくれるフィルターの代わりになると考えられていたわけです。
また、ペストは皮膚からも感染すると考えられていたため、ペストマスクだけではなく、肌を露出させないよう全身を布で覆い、つば広帽子や手袋なども着用していたことがわかっています。
ペスト医師は通常の医師ではない
ペスト医師は本来であれば専門教育を受けた医師の仕事であったものの、当時は医療行為というよりも商売に使っていた医師も多かったと言われています。
医師の副業?
ペストが大流行した当時、それぞれの都市では特別に報酬を用意して、医師たちに治療に行わせていました。
医師は「誰もが公平に治療が受けられるように」と奮闘しましたが、中には本業では稼げない二流の医者やヤブ医者、闇医者、若い医者なども混ざっていたと言われています。
ただ、実際には簡単な仕事ではなく、大流行の中で医療行為をする彼らは常に死と隣り合わせだったことも事実です。
まったく医師ではない人たちも
ペスト医師の中には、大混乱に乗じて果物売りをしていた人も混ざっていたと言われています。ペストマスクは顔が隠せるので、誰でも医者になれてしまう状況だったわけです。
死と隣り合わせの危険な仕事ではありますが、行政から報酬を得ることが出来る為、生活が苦しい者が知識もなくペスト医師として活動することもあったようです。
当然、彼らの仕事がペストの流行を食い止めたのかと言われると、素人も紛れ込んでいたこともあって実際には定かではありません。