なお、難民資格がなく、本来ならドイツから出国しなければならない外国人の数が22万6882人だが、しかし、ドイツ政府は母国送還など一切やる気がなかった。それどころか緑の党が、「(アフガニスタンなど)死刑のあるような野蛮な国に人を戻すのは非人道的である」として反対するため、たとえ強姦・殺人を繰り返したような重罪犯でさえ送り返せず、ドイツの刑務所で手厚く面倒を見ている。
つまりドイツでは、違法な手段であろうが、何であろうが、一旦、入国してしまえば、たとえ難民審査に落ちても、最終的には留まれる状態だ。しかも、職がなくても、基本的人権を守るという観点により、衣食住も保証される。皆がドイツを目指すのは、当然の話だろう。
ただ、そうするうちに、23年のドイツの犯罪数は80万件に迫り、その半分強が、不法入国や不法滞在など、外国人に特化した犯罪だった。また、暴行傷害や窃盗も二桁台のパーセンテージの伸びで、特に性犯罪は約2500件と15%増。さらに、ナイフを使った犯罪が2万6000件と急増し、ここでも外国人の犯行がドイツ人の6倍。犯罪は凶悪化しており、警官や、救助に駆けつけた消防や救急隊員に対する暴行も過去最高となったという(8月19日の連邦警察と内務省の発表)。
AfDと旧東独の選挙事情そんな矢先に起こったのが、前述のゾーリンゲンの事件で、焦ったのは社民党だった。なぜなら、社民党は現在、壊滅的に人気を落としているというのに、9月には旧東独で3つもの州議会選挙が迫っていたからだ。しかも、その旧東独で強いのが、2015年以来、一貫して難民政策の修正を主張し続けていたAfD(ドイツのための選択肢)なのだ。
AfDは、他の全ての政党と主要メディアにより、極右だ、ナチだと悪魔化されていたが、国民は必ずしもその“誹謗中傷”に乗らず、支持は着実に伸びている。この上、ゾーリンゲン事件がさらにAfDの追い風になることだけは、社民党としては絶対に避けたかった。