先のNSCAIの報告書の中で提案されたことは、AIの関連技術の流出防止策だけではない。注目すべきは、「中国とのAI技術開発競争で後れをとらないため、自律型致死兵器システムを含むAI兵器の開発を禁止してはならない」ということがむしろ強調された点にある。
防衛研究所の川口礼人氏は、論文「今後の軍事科学技術の進展と軍備管理等に係る一考察」において、
LAWS は未だ現存しない兵器であるため、参加国間での共通理解が得られておらず、今後、規制等の枠組みをどのように構築するかが国際社会の課題となっている。LAWS は現存しないものの、その構成要素は産業界等が注目するデュアル・ユース技術であることからも、当該兵器への転用のリスクは回避できない問題である。よってLAWS に対する規制枠組み等を実効性のあるものにするためには、国際社会が LAWS の定義や潜在的リスクを共有するとともに、国家間、産業界、研究機関等の間で開発や利用の制限に関する法制度やスキームを多層的に設けることが重要である。
と結論づけている。
こうした中、2024年8月、国連のグテーレス事務総長は、自律型致死兵器システムの問題に強い危機感を示し、「再来年までに人命を奪うものは禁止し、そのほかの自律的なシステムも規制する、法的拘束力のある文書を締結する」よう各国に呼びかけた。国連の強い指導力が一層、発揮されることを強く期待する。
【参考】 ・2021年3月3日付産経新聞 ・川口礼人「今後の軍事科学技術の進展と軍備管理等に係る一考察 ―自律型致死兵器システム(LAWS)の規制等について―」防衛研究所。
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藤谷 昌敏 1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、JFSS政策提言委員、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学客員教授(危機管理論)。主要著書(共著)に『第3世代のサービスイノベーション』(社会評論社)、論文に「我が国に対するインテリジェンス活動にどう対応するのか」(本誌『季報』Vol.78-83に連載)がある。