報告書が指摘するように今やAIは、世界を大きく変える革新技術だ。米国がAIの関連技術に対し、グーグル、アマゾンなど民間の巨大産業も交えた官民一体の厳しい規制を行おうとする背景には、技術革新が安全保障領域に劇的な変化を与えているという現実がある。
これまでの伝統的安全保障では、陸、海、空の3領域における量的質的優位を構築するということが主な戦略だった。しかし、技術革新の進歩は、これらの3領域だけではなく、サイバー空間、宇宙空間を加えた領域がインタラクティヴに作用する世界を作り上げた。
これにより、安全保障の領域は空間と複雑さを一層拡大することとなり、それらすべての領域で優位に立たなければ、本当の安全保障とは言えない時代が来たのだ。
AI登場の意味とはこれまでのAIがない世界では、核兵器は戦争の際限ない拡大と残虐性をパラドクシカルに固定化させていた。つまり、核兵器は、自身が持つ巨大なエネルギーと破壊力ゆえに地球さえ破壊し兼ねない兵器と化し、人類が使用できない矛盾した兵器となった。核ミサイルが自国を目指して飛んでいることが分かったときに、反撃の核ミサイルのスイッチを押せば、敵国も自国もなく人類が絶滅することになる。これは神さえも押せないスイッチだ。
だがAIが登場して以降、軍事面では無人航空機・車両・潜水艦などを生み出し、戦争のハードルが大きく下がった。こうしたドローンは、人間が前線に立たないことで犠牲者を大きく減少させる効果がある。それは戦争に踏み切ることを為政者に容易に決断させることになる。つまり、為政者にとって、兵士の犠牲者が少ないことは国民の不満をそらす重要な要素だからである。
一方、非軍事面におけるAIの発達は、医療、環境保護、交通などで大きな成果を挙げた。例えば、医療では、患者のデータを分析して最適な治療法を提案して、ガンなどの早期発見と治癒に寄与した。環境保護では、環境データの解析により、気候変動の予測や自然災害の早期警報システムの構築に貢献した。交通では、交通システムへの活用により交通渋滞の緩和や事故の減少が期待された。AIは、非軍事面でも社会全体の効率化や生活の質の向上に大きく貢献したのだ。
自律型致死兵器システムの開発をどう規制するべきか