もう一つは、グリーン・アンモニア製造である。ナミビアはアフリカ南部に位置し、ドイツからは遠いので水素のままで運ぶのは危険でコスト高と判断し、アンモニアにして輸送することを考えたのだろう。しかし、水素をアンモニアに変えるには、現時点では高温高圧プロセスを必要とし、その熱源として石炭を使うのが常道で、再エネ電力だけでアンモニア合成まで行った例はまだないはずだ。
つまり、普通のアンモニア合成をやったら「脱炭素」でなくなるか、または再エネ電力を使って恐ろしく高価なアンモニアを手にすることになるのだ。
この問題は、日本で水素・アンモニアを議論する場合には避けて通れない課題のはずだが、相も変わらず脳天気な「検討」が行われているようだ。
ちょうどこの時期に「水素・アンモニア供給網構築、全国各地計画続々と」なる記事が出た。発電所やコンビナートなどのエネルギー需要家に対して、水素やアンモニアの需要規模などを調査するとある。例によって経産省・資源エネ庁の補助事業「水素等供給基盤整備事業」で、水素・アンモニアの供給基盤構築に向けた調査だとある。
しかし、供給するためには調達しなければならないのだが・・? ここでもまた、使うことだけは熱心に調べているが、いつ・どこから・いくらで水素・アンモニアを調達するつもりなのか、全く書かれていない。
これを書いた記者たちは、不思議に思わなかったのだろうか?需要を聞かれる側だって、いつから・いくらで供給されるか分からないのに、うかつに答えることなど難しいだろうに。屁理屈をこねたら、供給の見積もりをするために需要を調べるんだと言い張れるが、これも「卵と鶏」論だ。
それに需要というのは、必要があれば独りでに生じるものなので、何も事改めて需要を調査しなければならない理由が分かりにくい。どうしても需要を開拓したいのか? 何だか話が逆だ。
日本と比べたら、ドイツや英国の人々は水素等についてずっと真面目に検討している。しかし、いくら検討しても、おそらく水素の困難は解消できないと私は思う。
その理由は、今度宝島社から出た「SDGsエコバブルの終焉」や、改訂版が出た「非政府の有志による第7次エネルギー基本計画第4版」に詳しく書いておいたので、内容は一部重複するが、参照いただきたい。また、これまでアゴラに散々書いてきた水素・アンモニア批判の諸論考も、参照いただければ幸いだ。