そんなところに、無料の朝刊紙メトロが入ってきた。

メトロは通信社の記事が大部分だ。すると、これまでのほかの新聞のように左右いずれかの政治信条に傾いた記事ではなく、いわゆる「中立な」記事が読めることになった。凝った書き方の記事ではなく、表現もストレート。つまるところ、「あっさりしているが、事実が入っており、わかりやすい」記事が満載ということになる。

こうしたジャーナリズムは、既存の新聞の独自なジャーナリズムに慣れてきた人にとって、とても新鮮だった。広告主にとっても、大量の人の目に留まる無料新聞は新たな市場を作ることになって、大歓迎だった。

ロンドンを舞台にして無料紙市場で競争が発生するようになった。経済・金融の朝刊無料紙「シティーAM」も創刊された。

窮地に陥ったイブニング・スタンダード

無料紙が人気になると、困ったのがロンドンの夕刊紙として長年の歴史を持つイブニング・スタンダードだった。お金を出して新聞を買ってもらうことが非常に難しくなってしまったのだ。2009年、とうとう元ソ連のスパイだったアレクサンドル・レベデフ氏に売却されてしまった。同氏は買収後まもなくして、無料新聞に変えた。

しばらくはこれで経営が続いたが、大きな衝撃となったのが、2020年の新型コロナの感染拡大だ。政府が行動規制を敷いたことで、通勤客が激減した。企業は自宅から勤務する制度を導入せざるを得なくなった。コロナ感染が収まった後も、週5日出社するのではなく、リモートワークを組み合わせる会社が出てきて、働く側もリモートワーク制度を取り入れた企業への就職を望むようになった。

通勤客の足がコロナ前のレベルに戻らなくなったので、イブニング・スタンダードは今年8月から、週3回の発行に変えた。それでも経営は難しかった。

そして、9月中旬で週3回発行は終了し、23日の週からは木曜日に発行されるだけとなってしまった。

我慢比べ?