また先に述べたように「孤独な男」遺伝子は植物にとって極めて重要な遺伝子であり、植物の成長に影響するホルモン(サイトカイン)を活性化させる役割を担っていることがわかっていました。
多くの人々は、トゲという付属的なパーツの性質から、トゲ生成は専用の遺伝子の役割だと考えていたでしょう。
しかしバラやナスのトゲは、植物にとって重要な遺伝子の1つがトゲ生成の役割を兼任したことにより作られていたのです。
植物たちは長い時間をかけて「孤独な男」遺伝子のさまざまなバリエーションをつくって、一部の植物ではそれをトゲを作るために進化させ、そうでない植物は元通りの植物の成長を助ける役割を担い続けてきたわけです。
「孤独な男」を取り除けば農業が楽になる
今回の研究により、バラやナスのトゲ(prickles)が、植物の成長において重要な「Lonely Guy(孤独な男)」遺伝子によって作られることが示されました。
研究者たちは、この遺伝子を上手く改変することで、トゲが手強い植物からトゲを奪い、農作物として使用できるようになると述べています。
今回の研究では、オーストラリアに生息する野生植物(砂漠レーズンの一種)において先駆けとなる実験も行われました。
この植物は甘い果実を実らせますが、トゲに相当する組織があることが知られています。
しかし研究者たちがこの野生植物から「孤独な男」遺伝子を取り去ったところ、そのトゲがなくなりました。
もし同様の手法でトゲの存在がネックになっている植物を操作できれば、人類の食卓はより豊かなものになります。
また「イノベーションは全く新規のもの(遺伝子)を開発するのではなく、古いものを新しい方法で再利用することでも達成できる」という実例が人間のビジネスではなく植物世界で広くみられるという結果も、興味深いものと言えるでしょう。