そのため、聴力への悪影響は報告されていません。
耳クソの真価
1955年に大英博物館のP.E.パービス(P.E.Purves)により、「ヒゲクジラ類の耳クソがどうやら年齢を調べるのに役立つらしい」と発見されて以来、盛んに研究が行われてきました。
これは、ヒゲクジラ類の生態と耳垢栓の成分に関連しています。
耳垢栓は、主に人間の髪の毛や爪を構成するタンパク質の一種であるケラチンと脂質で構成されています。
ヒゲクジラ類は、半年ごとに餌を食べる時期と食べない時期を繰り返すため、餌を食べる時期には脂質が多く含まれた明るい色の層、餌を食べない時期には脂質が少ない暗い色の層が形成され、まるで木の年輪のように層状に蓄積していきます。
この明暗色の層(成長層)が1年に1セット形成されることを利用し、1セット=1歳とカウントして年齢を査定します。
得られた年齢データから、性成熟し繁殖活動を始める年齢や死亡率、年齢組成を推定することもでき、長年様々な研究に利用されてきました。
年齢データを基にした研究以外にも、耳垢栓がホルモンや環境汚染物質などの化学物質を保持することを利用した研究も行われています。
耳クソから146年間のストレスの正体が判明
従来、クジラを生涯にわたり化学的に分析し、人間の活動や環境変化などのストレス要因がクジラに与える累積的な影響を評価することは極めて困難であるとされてきました。
そこで、トランブル氏らは、ヒゲクジラ類の耳垢栓に着目しました。
ストレスを受けたときに分泌が増えるホルモンであるコルチゾールの測定値と年齢データを組み合わせ、ヒゲクジラ類が受けたストレスを長期的に評価しようと考えたのです。