■ある日、世界の音が一変した

 駅から5分も歩けば、傳田聴覚システム研究所の立派なビルが見えてくる。同研究所 所長の傳田文夫(でんだ ふみお)さんは、クラリネット奏者で音楽家。 洗足学園大学音楽学部で長年講師を務め、さまざまな演奏会を催してきた。クラシック音楽にどっぷりな人生を送ってきた人だ。

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(画像=クラリネット奏者としてクラシック音楽に触れてきた傳田さんは、ある日、衝撃的な体験をする、『TOCANA』より 引用)

 30年以上前、傳田さんは衝撃的な経験をする。

「僕が32歳の時、ある日突然ね。それこそ1万回ぐらい聴いたレコードから突然違う音が聴こえてきたんですよ。クラリネットの曲ですけど、それも戦中に活躍していたプレーヤーのレコードで、もともと音質は良くないんですよ。そこから、それまで聞いたこともないような微細な音が聴こえてきたんです」

 これまですり減る程聴いてきたレコードから、ある日突然、聞こえていなかった音が聞こえ始め、曲自体が別の曲のようにビビットに聞こえ始めたという。今まで聞いていた曲が、突然、本当の姿を現した。

 衝撃なんてものじゃなかった。それまで傳田さんは日本の音楽教育は間違っていると考え、大御所にもケンカを売ってきた。バカだと見下すこともあった。それが正しいと思っていた。ところがだ。今まで自分には音楽の本当の音が聞こえていなかった。

「これはコードが違うとかそういう音質の違いじゃないことはわかった。私はそれまで十何年間も、ずっとクラリネット音楽のことを研究してきた。とにかく必死で研究してきたことが、その一瞬でダメになっちゃったわけですよ。今まで聴いていた音が完全に間違っていたんですから」

 おそらく他の人にはみんなこの音が聞こえていたのだと傳田さんは気がついた。自分がバカにしていた教師はバカではなく、バカは自分だったのだ。

「僕だけがこの音が聞こえていなかったと、そう考えざるを得ないんですよね。それが一番合理的な考えです。みんなは聴こえてたんだよ。自分だけ聞こえないから、自分一人違う研究をやっていた。僕が間違っていた。間違ったまま、長い時間を生きちゃった」