月着陸/宇宙開発が、夢やロマンは別として、世の中で何の役に立つのか?
今回の「スリム」の月着陸に要した総開発費は149億円。その出所はすべて税金である。宇宙開発全体(偵察衛星も含む)の予算規模は6000億円。夢やロマンも結構だが、福祉など別の用途に使ったほうが社会の役に立つのではないかという意見は出て当然だろう。
人工衛星、特に宇宙探査機は、打ち上げ時の重量制限による軽量化と、長期間宇宙空間の真空と高温、低温という厳しい環境にさらされるため高い耐久性と信頼性を求められる。宇宙探査機を設計・製造する際に培われた高度な先端技術とノウハウは、水平展開され他の人工衛星や、波及して他の産業にも活かされる。
例えば、「スリム」を設計・製造した三菱電機は気象衛星「ひまわり」を製造しており、この「ひまわり」のおかげで気象予測の精度は格段に進歩した。気象庁からの気象データを基に気象情報会社は解析し洗練化した上で、各企業に配信している。このデータに基づき、食品スーパーは来店数予測をして入荷数を調整し廃棄率を下げられる。建設企業は天候を予測しながら効率的に建設工事計画を立てられる。アパレル企業は季節の変わり目に合わせて広告を打っている。
さらに、宇宙開発で培われた技術は政府から民間企業に伝承され、米国ではスペースX社を中心に、すでに宇宙自体が巨大な民間ビジネスの場となっている。日本でも民間初の月着陸を狙うアイスペース社をはじめ多くのスタートアップ宇宙企業が生まれ、政府もこれらを支援し始めている。
消費者の目線に立てば、GPSのおかげで一般消費者もカーナビでの運転を享受でき、衛星放送によって大谷翔平のホームランを日本にいながらリアルタイムで見ることができる。このように、もはや当たり前すぎて意識もされないところで、宇宙開発の恩恵は各企業、消費者に浸透している。
月探査機「スリム」が世界に先駆けて行った「ピンポイント着陸」によって培われた高度な先端技術が、今後さらなる社会への貢献につながることを期待したい。
(文=橋本安男/航空宇宙評論家、桜美林大学航空・マネジメント学群客員教授)
提供元・Business Journal
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