金正恩総書記にとって、軍事大国ロシアとの間の軍事協定ほど心強いものはないだろう。もはや米国や韓国を恐れることはない、という思いが金正恩総書記に湧いてきても不思議ではない。中国との関係では血を分かち合う友邦国関係といわれてきたが、歴史的なこともあって北朝鮮は中国共産党政権への警戒心が解けない。一方、ロシアとは歴史的なしがらみは少ないこともあって、関係強化にはあまり抵抗感がない。それ以上に、ロシアから北が願ってきた軍事関連情報、特に、核関連情報や人工衛星開発のノウハウを手に入る道が開くという希望が出てくるから、平壌指導部はロシアとの関係強化に大喜びだろう。

もちろん、ロシア側は無条件で北側の要望に応じる考えは毛頭ない。ギブ・アンド・テイクだ。ウクライナと戦闘中のモスクワは大量に武器が必要だ。戦闘が2年を超えると、ロシア側の在庫も少なくなる。ロシアは中国やイランから軍事用先端機材やミサイル、無人機などを入手する一方、北朝鮮からは弾薬、大砲を獲得している。人間関係でも国との関係でも、双方の願いが一致すれば、その関係は深化していくものだ。北朝鮮では現在、軍需工場はモスクワへの武器生産でフル回転だ。インスブルック大学のロシア問題専門家、マンゴット教授は「ロシアと北朝鮮間の貿易総額は前年比の9倍に急増している」という。

以下の15日のAFP通信の記事を読んでみてほしい。ウクライナ国防省のブダノフ情報総局長の発言だ。

「ウクライナのブダノフ情報総局長によると、戦場では北朝鮮からの弾薬と大砲がウクライナ軍の最大の脅威となっている。ロシアの同盟国の中でも北朝鮮が最大の問題だ。北朝鮮からロシアへの軍事支援は戦闘の行方に大きな影響を与えている」というのだ。金正恩総書記にとって良き証だろう。わが軍がウクライナ戦争の行方を左右している、といった誇りすら感じているかもしれない。

金正恩総書記は13日、訪朝したロシア安全保障会議書記官のセルゲイ・ショイグ氏(前国防相)と会談し、ロシアとの関係を深化させることを表明している。ちなみに、ロシアとの関係は軍事分野だけではなく、人的交流も広がってきている。北朝鮮の崔善姫外相はサンクトペテルブルクで18日から開催される「ユーラシア女性フォーラム」に出席し、演説するために訪露中だ。崔氏はロシア滞在中、プーチン大統領と面会する可能性もあるという。