そのため、炊飯器の内なべは対象製品の量産が終わる直前のタイミングに10年分のスペアを一挙に生産します。このスペアは10年以内に在庫切れにしてはならないので、どうしても数に余裕を持たせるように作る必要があるのだそうです。

「ただ、これをしていくと10年後には内なべが在庫として残ってしまうのです。これらの在庫を再利用できないか、と考えたのが魔法のかまどごはんの原点でした」

新聞紙で炊く直火炊飯器の誕生

在庫の再利用について考えるなか、村田氏は過去の経験を思い出したそうです。

「私は学生時代、野外活動施設でアルバイトをしていたことがあります。そこで新聞紙を燃やして飯盒炊飯をしたことがあるのですが、正直あまり覚えていません。ということは、大して美味しいごはんではなかったということだと思います」

それから30年、タイガー魔法瓶という企業で経験を積んできた村田氏は、「今ならもっと美味しい直火ごはんを炊くことができるのでは?」と思い立ちます。

現状の課題と過去の経験。この2要素が結合し、魔法のかまどごはんのコンセプトが形成されたという経緯です。

魔法のかまどごはんは、棒状にした新聞紙を燃料にする直火炊飯器。マニュアル通りの本数・タイミングで新聞紙を入れていけば、誰でも簡単に美味しいごはんが炊けるというもの。

魔法のかまどごはんには2通りのモデルがあります。新規生産の内なべを使ったモデルと、スペアの内なべを再利用したモデルです。一般カスタマー向けには前者、自治体やアウトドア施設、教育施設向けには後者が販売されています。

新聞紙を燃やして使うもののため、安全性には妥協のない配慮が施されているといいます。マニュアル通り適切に扱えば、新聞紙の燃え残りが出ない仕組みになっています。というのも、燃え残りはお手入れの際、空気に触れて突然火が大きくなることがあるからです。そうならないよう、最後の最後まで灰になる設計が為されています。