こうした制度から読み取れる方向性は、社員の望まない転勤をなくし、転居してでもキャリアに必要な経験だと自ら希望した人のみが転勤する。希望者のいないポジションに異動してもらう時は、金銭で報いることで納得できる人が異動する。転勤は、個々人がキャリアやライフイベントを考えて自律的に選ぶという考え方だ。

労働条件明示のルール変更を、形式的な対応で終わらせるべきではない

社内公募制度やリモートワークの拡充、一度退職した人を迎え入れる制度などで選択肢を増やし、中途採用を増やすなどして企業内の多様性をすすめ、いろいろな選択をしてきた人がいる環境をつくる。

総合職=転勤ありの管理職候補/一般職=転勤なしサポート業務という歴史の流れの中で決まった37年前の分け方ありきではなく、社員の意志を尊重した制度を考える、そんな企業が選ばれる。社員のほうも、会社任せではなく、主体的なキャリアプランを持った人が企業から求められるのが本来の姿のはずだ。

今回の労働条件明示ルール変更を、「では総合職の求人に、日本全国・海外の支店と書いておけば法的にOK」と対応するのか、変更の趣旨を理解してこの機会に全体的な制度を改善するのか。今後も注視していきたい。

東福 まりこ 転職カウンセラー 自身のアドバイスで友人が転職に成功したことをきっかけに、転職カウンセラーとしてキャリアの見直しワークショップを開始。過去の転職経験や海外勤務経験をベースにアドバイスを提供中(国内大手1社・外資系2社、ドイツ赴任1年)。現在はマンツーマン形式でキャリア相談を行う。「転職」ではなく定期的な「転職活動」で市場価値を知るべき、が持論。飼いネコに構ってもらいながら働く日常を送る。