これらの「社会政策」を戦時国家日本は実行、ないしはかなり具体化するために努力したから、高岡はその時期の日本を「社会国家」と命名したのだろう。

福祉国家は自由主義国家の範疇

しかし「社会国家」を使うフランスでは、「福祉国家は自由主義国家に対立するものではなく、それを拡大し、正統性の原則の意味合いを発展させる」(シュナッペ、op.cit.:220)。「経済的・社会的・文化的秩序への国家の介入は、民主主義国家の必然的結果である。自由主義国家と福祉国家の間には切れ目や断絶はない」(ibid.:268)。

要するに、フランス語にいう「福祉国家」(État providence)は、socialisme d’État (国家社会主義)とは全く異なり、État gendarme(夜警国家)とも違い、pays libre(自由主義国家)の範疇に含まれていると考えらえる。

だから、「福祉国家」は「戦時国家」(≒「社会国家」)とは異質とした方が言語的にも理解しやすいのではないか。したがって、「戦時国家」の日本に「社会国家」をあえて当てはめる必然性を感じない。

OECDによる「社会支出」項目

さらに現在のOECDによる「社会支出」は、高齢、遺族、傷害・業務災害・傷病、保健、家族、積極的労働市場政策、失業、住宅、その他の9項目から成り立っている(「上」の表5参照)。日本もまた、この「社会支出」を使っている。

現代の自由主義国家と戦時国家との決定的な相違は、軍事予算の比率であろう。これを無視して、「戦時国家」(≒「社会国家」)が成立するのかどうかという疑問もある。

戦時国家は「社会国家」の第一期か

加えて、高岡が挙げた「戦時国家」における「社会化」の実態が上述の1.から5.なのだから、日本だけに限定しても「戦時国家」が1930~50年代には「社会国家」化の第一期と規定されて、1960~80年代では「社会国家」化の第二期になるという分類もまた疑わしい。