(11)大河内一男は自著(『戦時社会政策論』時潮社、1940)のなかで、「社会国家」を数回使用していた。その場合は、「生産力拡充のための労働力=『人的資源』の配置を主眼とする総動員国家」(高岡、前掲書:165)であった。もちろん現在の「福祉国家」では「生産力拡充」を目的としても、そのような「総動員」政策は採られていない。

(12)大河内の特徴は、「総動員国家」の一面が「経済国家」であり、「その裏面に於いてまた巨大なる『社会国家』」(大河内、前掲書:164)と書いている。だから、主な狙いは「生産力拡充=経済重視国家」への切り替えにあり、「裏面の社会国家」については「労働政策」に重点が置かれたことになる。決して「社会支出」がカバーする社会移転(家族手当、失業手当)、保健(健康保険、病院)、年金、教育(初等、中等、高等)などが重視されたのではない。

生産力拡充政策と連動した『社会国家』構想は「産業国家」で十分わかる

(13)「『戦時社会政策』=『社会国家』を実現するためには、日本資本主義の構造そのものの『構造的変革』が必要となる(高岡、前掲書:167)。ここでも高度成長期から社会学では定番表現となった「産業化を主軸とした国家戦略」で十分である。

(14)「生産力拡充政策と連動した『社会国家』構想を、生産力主義的『社会国家』と呼んでおきたい」(同上:169)。これは「産業国家」で代替できる。

(15)「日中戦争下においては生産力拡充……と、『社会国家』(国民生活に対する保障)がセットで論じられるという状況が生じていた」(同上:169-170)。これも「社会保障への配慮を怠らない国家」で置き換えが可能であろう。

(16)「大河内が総力戦体制の中に展望した『戦時社会政策』=生産力主義的『社会国家』の可能性を体現した方法」(同上:198)。ここでも「生産力向上をめざす国家」で十分である。

民族 – 人口政策を優先する戦時国家