“何もしなくても客が来る”が仇に
15年には株主の米投資ファンド・サードポイントから、23年にはバリューアクト・キャピタルからセブン&アイHDはヨーカ堂の分離を要求されるという事態も起きたが、同じセブン&アイ・グループながらセブンとヨーカ堂の明暗が生まれた要因は何なのか。流通アナリストの中井彰人氏は、そもそもヨーカ堂は赤字ではあるものの経営が揺らいでいるわけではないと指摘する。
「まず前提として、ヨーカ堂は赤字ではあるものの、今年2月末現在の自己資本比率は70%を超えており、これはGMS業界ではトップクラスの数字であり、現時点では経営が破綻する懸念はありません。今年2月には首都圏の店舗に向けて商品を供給する巨大なセントラルキッチンを千葉県に稼働させるなど、多額の投資を行う余裕もあります。現在は黒字化のために不採算店舗や将来的に収益が見込めない店舗を整理している状況であり、北海道や東北の店舗を閉鎖するのも、今後は首都圏に注力していくという戦略に則ったものです。チェーンストア業態は物流拠点から各店舗に商品を搬送する必要があるため、経営効率向上の一環として商圏を絞る戦略に転換したのだと考えられます。
すでに国内ではGMSという業態はすでに限界を迎えており、20年ほど前には西友やマイカル、長崎屋など多くのGMSが破綻し、最後まで生き残ったのがイオングループとヨーカ堂だといえます。イオングループは、食品以外の売り場には積極的に他社の専門店をテナントとして入れてモールを形成するという戦略で生き残りに成功しました。これはテナントから賃料を得ることで収益の安定化につながり、自社で在庫を抱えるリスクも低減できます。現在では全国にイオンモールをはじめとするGMSを展開しています。
一方、ヨーカ堂は首都圏の駅前をはじめとする非常に良い立地に店舗を構えていたため、“何もしなくても客が来る”という状態が続きました。それが災いとなり店舗が老朽化し、加えてオーケーやライフといったライバルが力をつけて駅近にも出店するようになり、ついにヨーカ堂も追い込まれて大量の店舗閉鎖をはじめとするリストラに着手せざるを得なくなりました」