ただ、それはシーズン中の出来事でしたので、シーズンが終わるまでの暫定的な監督職という提案でした。返事の猶予は24時間で、私は引き受けることを決断しました。というのも、当時始まっていたシーズンが素晴らしく、このハイレベルな状態のまま終えなくてはならないという気持ちがあったからです。
ジル・ロマンの解雇というのは非常に急で、私たちにとっても予期していなかったことでしたので、ダンサーたちもパニックに陥っていました。そうしたパニック状態のダンサーたちを安心させることが自分の役目だと、あの時にリアルに実感したわけです。つまりグループをもう一度一つにまとめて、モーリスの作品を上演し続けていくことが自分の使命だと。17歳でカンパニーに入ってからの自分の歴史的な存在というものを非常に強く自覚しました。
――今まで仲間であったダンサーたちをまとめていく立場になったのですね。
ファブロー:そうですね。私は二つのことから引き受けることを決めたのです。一つ目は、この提案が自分にとって正当なもので、これを引き受ける理由があるということ。二つ目は、一番柔らかに物事を着地させていく解決法であるということです。
この知らせを受けた時に拍手が沸き起こり、結果として誰もカンパニーを去る決断をした人はいませんでした。今後の芸術的なヴィジョンとして、まずBBLのアイデンティティに関すること、これを大切にしたいという点があります。
――ご自身の立場の変化ということに関しては、強く思うことはありましたか?
ファブロー:引き受けてから凄いスピードで色々なことが進んで行きました。最初の数週間はなかなか慣れないものがあって落ち着く暇がなかったですね。
というのも、シーズン中だったので、私がまだ重要な役を上演しているときで、自分のパフォーマンスにも集中しなければいけない。一方で芸術監督としてダンサーのリハーサルに立ち会ったり、照明とかあらゆるスタッフたちに指示をして確認したり、仕事が一挙に三倍に増えたような状態でしたが、幸いなことに私は一人ではなくて、エリザベット(・ロス)や(小林)十市にだいぶ助けられました。その後、自分の出演というものはキャンセルをして、新しい仕事に取り組むことを選択しました。