ウクライナがようやく議会の批准をへてICCに加盟申請を正式に決めたのは、ほんの10日ほど前の今年の8月下旬のことである。ICCローマ規程にしたがえば、この批准が効果を発するのは、60日後のことだ。ウクライナはまだ、正式なICC締約国ではない。締約国会議からの認知もない。

まだICC加盟国として活動していないウクライナが、加盟国として長年の実績があるモンゴルを、ICCローマ規程の運用方法を理由にして糾弾するのは、異例だ。ICCローマ規程は、多国間条約である。たとえば中国が、「日本は日米安全保障条約上の義務を全うしていない」などと糾弾したら、異様であろう。法技術論で言えば、ウクライナ外務省報道官の発言は、それに近い。

まして「戦争犯罪の責任を共有している」というのは、言い過ぎだ。モンゴルが、戦争犯罪の責任を共有している、と断定できる国際法上の根拠はない。共有などしていない。単なる感情的な罵倒である。

ウクライナの憤りは正当であり、理解できるものである。しかし第三者でしかないモンゴルの反発を招く以外の結果が何も期待できないような罵倒の言葉を並べても、ウクライナが得られるものは、何もない。被侵略国であるという事実は、世界中の諸国に対して道徳的な説教ができることや、国際法の運用方法を決定できることまでも、意味しない。

ウクライナにとって、現在の戦局は厳しい。焦りは、誰の目にも明らかだ。しかし、だからこそ、感情だけで発言している、という印象を世界の諸国に与えることは、避けたほうがいい。

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