もっと身近な話もある。自分が気に入って通い詰めていた隠れ家的な小規模の料理店がある。料理はおいしく店長さんも気さくでとても素晴らしい店だった。しかし、ある時から「実はあまり大きな声ではいえませんが…」と前置きをして、店長さんは自分が来店するたびに陰謀論やオカルト話ばかりするようになったのだ。最初は相手に合わせていたが、話をされるのが苦痛に感じてもうその店へ行くのをやめてしまった。

ビジネスは「ありのままの自分」「自分のやりたいこと」を無編集でそのまま出してはいけない。もちろん、自分の流儀や生き方が顧客に支持されるならその部分に限定して出しても構わないだろう。しかし、独りよがりになると一瞬で人は離れてしまうのだ。

「余計な一言」の恐ろしさ

今の世の中は一億総ジャーナリスト社会であり、誰もがカメラやマイク付きのスマホを持っている。それ故に、好ましくない言動をするとたった一発で長年の人間関係も終わらせてしまう怖さがある。

仕事の現場でよく聞く話が、聞きかじった知識をさも正しいかのように出してしまうものである。具体例を出そう。ITソリューションシステムを販売する営業マンが「弊社のサービスで無駄な在庫を大幅に削減できます。今の製造業の在庫管理は時代遅れ、もっと効率的にやるべき」という趣旨の発言をしてしまった。だが、これが相手の社長の癇に障ったのだ。一体、何が問題だったか?

営業を受けていた社長側は製造プロセスの最適化において在庫管理が極めて重要であり、独自の方法で非常に効率よく運用してきた実績がある。そこを考慮せず、「今どき在庫管理は時代遅れ」と全体論的な浅い意見を軽はずみに見せてしまったことが「何もわかってない素人がえらそうに」と社長の逆鱗に触れたという話だ。

営業マンはITシステムは専門家だが、製造業における在庫管理は門外漢、相手の社長を尊重する意識が欠落していたのだ。自分より詳しい専門家を相手にする時は、本当に発言に気をつけるべきだ。「この人は浅知恵で顧客を丸め込み、商品を買わせようとする不誠実なビジネスマンだ」と判断されて一発退場になってしまう。