もし、マイナンバーカードの券面写真とセルフィー写真が何かしらのきっかけで漏えいしてしまったら、知らない間に自分名義の銀行口座が作られていた……ということも十分にあり得るそうです。
オンライン面談に悪用されるディープフェイク
それを防ぐ手段として、最近ではオンライン面談を取り入れている金融機関もあります。しかし、この部分に関しても問題が発生していると日下氏は説明します。
「ChatGPT-4などの生成AIの発達が各産業の成長を促しているという側面もありますが、同時に犯罪者がそれを無料で利用している点も忘れてはいけません。
社内で私のディープフェイクを作ったこともあります。顔だけでなく、声も生成AIで私そっくりにできるんです。多分、次世代のVTuberはこんな感じでディープフェイクを活用すると思います(笑)」
無料もしくは廉価でディープフェイクを作成できるということは、名もなき一般市民のディープフェイクで勝手に口座を新規開設できてしまう……という意味でもあります。
ならば、そのディープフェイクを見抜くための技術を導入すればいいのでは? しかし、それに対して日下氏は厳しい回答。
「券面写真の偽造、ディープフェイクを見抜くことは完璧にはできません。もちろん、そうした技術は存在しますが、現実問題として偽造身分証やディープフェイクを100%見抜けるようにはなっていません」
そうした事情があるため、金融機関にeKYCを提供する会社も「偽造身分証によるeKYCを見抜くこと」を契約書では完全に保証していないといいます。
「eKYCサービス事業者はお客様、すなわち金融機関に対して“身分証の偽造を見抜くこと”を契約の中で保証していません。
アップロードされる写真の中に偽造のものがあるか、オンライン面談でディープフェイクが使われているか否かを判別するのは契約の外の話。eKYC事業者の提供しているサービスは、そういうものではないんです」