野党第一党の「キリスト教民主同盟」(CDU)のメルツ党首はゾーリンゲン事件直後、「シリアとアフガンからの移民受け入れを全面的にストップすべきだ」と述べていた。メルツ党首はショルツ政権のアフガン不法移民の強制送還決定に対しても、「現政権の移民政策は不十分だ」と指摘し、移民政策の抜本的な見直しを要求している。
今回の政府の決定に対し、ドイツのメディアでも評価が分かれている。例えば、右派のタブロイド紙「ビルト」は「重大犯罪者の送還を歓迎する。ドイツ政府は国の安全保障が最優先であり、犯罪者を保護する理由はない。今回の送還は、最近の一連の暴力事件やテロの脅威に対する厳しい対応として評価する」と報じている。一方、独週刊誌「シュピーゲル」や人権団体は、「送還は人権問題や国際法違反のリスクを孕んでいる。アフガンでは依然として人権侵害が常態化しており、特にタリバン政権下での送還は、帰還者が深刻な危険にさらされる可能性がある」と懸念。また、この決定がドイツの基本法や国際法に違反する可能性も指摘し、政府の対応に批判的な立場を取っている。
いずれにしても、今回の送還決定は、ドイツ国内の政治的圧力や治安の懸念から行われたものであり、社会全体での評価は割れている。安全保障を重視する一方で、人権への配慮が不足しているという批判は根強い。
参考までに、ドイツがアフガンに人々を直接強制送還したことを受け、オーストリアでも同様の措置を求める声が高まっている。ネハンマー首相はドイツの決定を歓迎し、極右「自由党」のキックル党首は「ドイツの決定は遅すぎた」と述べている。社会民主党(SPO)と緑の党は、法的に可能であれば送還を支持すると言明。リベラル派政党ネオスは「ドイツで可能でオーストリアではなぜ実行できないのか不思議だ」と指摘している。
なお、オーストリア内務省のデータによると、タリバンが2021年8月に権力を掌握して以来、オーストリアから合計553人のアフガン国籍者が出国しており、そのうち157人は強制措置を伴わない送還命令に基づくもの。396人の強制送還のうち、362人が他のEU加盟国(主にブルガリアとルーマニア)に送還され、34人が第三国に送還されたという。同国はこれまでアフガン出身の不法移民をカブールに直接強制送還をしたことはない。