そこでアビイ首相は、国境の領土紛争を、エチオピアが譲歩する形で解決して、2018年にエリトリアとの和解を果たし、エリトリアと接近した。アビイ首相に2019年にノーベル平和賞をもたらした大事件であったが、エリトリアと犬猿の仲にある国境地帯の北部州ティグレイの人々が、アビイ首相に反発する、という副次的効果も生んだ。
2020年にティグレイ紛争が勃発すると、エリトリア軍はエチオピア連邦軍とともにティグレイ州に軍事展開したが、その際の蛮行は国際的に大きな非難の対象となった。ティグレイ州から、アムハラ州へと、エチオピアの混乱が移動していく中、アビイ政権とエリトリアの関係も微妙なものになっていった。そして今年になり、エチオピアの電撃的な「ソマリランド」との外交関係の樹立の意図が明らかになった。
ちなみにエチオピアは、北アフリカ西端にあるモロッコとも接近している。モロッコが認めていない未承認国家の西サハラのポリサリオ戦線側を、エジプトは支援している。エチオピアもエジプトも、アフリカの地域大国と言うべき存在であるだけに、両国の対立は、二国間関係を越えた影響を持つ。
「ソマリランド」の港湾施設に大きな権益を持っているのは、中東のUAEだ。もともとエチオピアとエリトリアの和解を仲介したのも、UAEだった。アビイ政権は、そして「ソマリランド」は、UAEと非常に親しい関係にある。
ちなみにUAEは、終わる兆しが見えない内戦の最中にあるスーダンにおいて、国軍と対立しているRSF側に、軍事支援を提供していると言われている。スーダン国軍は、伝統的にエジプトに近い。東アフリカにおけるUAEの存在感が、非常に大きくなっている。つまりエチオピアとエジプトの敵対関係は、中東情勢にも連動してくる。
さらに言えば、UAE、エチオピア、エジプトは、いずれも今年からBRICSに加入した諸国である。対立が深刻化すれば、BRICSの枠組みなどにも影響が及ばないとは言えないだろう。