ソマリア領のアデン湾に面した沿岸部のジブチと国境を接した部分にある「ソマリランド」は、ソマリア全体が激しい内乱に陥った1990年代初頭から、事実上の独立国家の状態にある。アルカイダ系テロ組織であるアル・シャバブとの戦闘に明け暮れる連邦政府よりも、安定した統治体制を持っている、と言ってもよい。

しかし依然として不安定なソマリア領内の情勢を考えると、「ソマリランド」の独立はパンドラの箱を開ける行為に等しい。「ソマリランド」の隣には、やはり未承認国家の状態にある「プントランド」がある。「ソマリランド」が国際的な独立の承認を得たら、「プントランド」も追随しようとするだろう。そうなるとアル・シャバブの統治下にあると言ってもよい南部地域を、連邦政府が実効支配できていないこともあらためて顕在化してくるだろう。形式化した連邦政府の存在の国内基盤も揺らぐことが懸念される。

脆弱だが、それでも最悪の時期と比べればまだマシだと言える現在の状態から、地獄の群雄割拠の内乱状態にソマリア全体が戻っていくことを、周辺諸国は、望んでいない。他のいずれの国も、望んでいない。そのため、「ソマリランド」が独立を認められる可能性は、現実には非常に乏しい、とみなされてきた。

今回、エチオピアが、あえて踏み込んだ姿勢をとってきたのは、どうしても海へのアクセスを確保したいというエチオピアの熱意によるものだった。1990年代に内戦をへてエリトリアが分離独立した後、内陸国になってしまった状況を、何としても打開したいという悲願を、アビイ首相は持っている。内陸国でありながら、エチオピア海軍を再建することを、公約として掲げている。

エチオピアがかつて重視していたのは、ジブチだ。中国の支援で建設したジブチと首都アディス・アベバを結ぶ鉄道が有名だが、ジブチとアディス・アベバの間の交通路は、この地域ででは極めて重要なものである。しかしすでにアメリカ、中国、フランス、日本、イタリアの軍事基地がひしめき合うジブチに、エチオピアが食い込んでいくのは、簡単ではなかった。