制作本数が激増し育成が十分にできない

 前出のレポートによれば、21年に放送されたアニメタイトル数は310本であり、20年前の01年の167本から2倍近くに増加していることがわかる。最盛期だった16年の361本に比べると本数はやや落ち着いてきているようだが、依然として混乱している現場が多いという。

 しかし、混乱しているとはいえ、アニメ業界全体で作品数が激増しているのであれば、新人時代から多くの現場に携わることができ、どんどん経験を積む土壌ができていそうなものだが。

「アニメーターとして素質のある新人でも、ノウハウや知識を積んで現場を回せるようになるためには、最低でも3~4年は必要です。元々、新人育成をフリーランスアニメーターに任せきりだった制作会社も多く、新人を育てるノウハウの薄い制作会社も多いのが課題でしょう。

 加えて、かつてはフリーランスアニメーターたちの間での育成がほとんど。新人アニメーターが演出や作画監督に原画を提出し、フィードバックを受けるという、通信教育のような育成システムが機能していました。戻された原画に貼られたメモを自分の机に貼り、各々が勉強してきたんです。しかし10年ほど前から制作本数の増加のためスケジュールが確保できず、分業化によりそのシステムが機能しなくなり始めました。

 一人前のプロといえるレベルのアニメーターになるためには、まず動画・原画をこなすことで経験や実績を積むのが王道のルートでしたが、現在は新人時代に十分な指導を受けられず、しっかりとしたノウハウや知識が身につかないままのアニメーターが多いのです。ところが、業界では毎クール作られる作品数が増加しているため、その本数をこなすための監督や演出の人員数が必要不可欠。そういった背景があるためノウハウや知識は不十分にもかかわらず、ある程度業界経験があるというだけのアニメーターや制作にまで、監督や演出、作画監督など重要な役職の要請が来てしまうわけです。こうした悪循環の結果が今の状況であり、アニメーターも監督も演出も素人同然という制作体制が出来上がってしまいます」(同)

 なお進行は、制作サイドとして採用された人の最初の仕事であることが多いそうだ。本来ならば、会社や先輩から色々教えてもらうべき内容だが、その教育がままならないのが現状なのだという。