「官僚の給料が安い」という認識が定着している背景

 では、待遇の重要な要素のひとつである給与はどうなのだろう。先の厚労省OBは「仕事がハードでいろいろと辛い思いをするのに、とにかく給料が安い」と語るが、これが典型的な受け止め方である。しかしキャリア官僚の年収に限れば、民間企業の平均を上回っている。キャリアの年収は、大まかに見ると課長補佐(30代)が約750万円、課長(40代)が約1200万円、局長(50代)が約1800万円、事務次官(50代後半)が約2400万円。民間企業の平均年収は「令和4年賃金構造基本統計調査」のデータでは、大企業と中小企業に差はあるが、平均すると課長(48歳)は858万円、部長(52歳)は1000万円である。

 この官民格差にあって、なぜ官僚の間に給料が安いという認識が定着しているのか。管理職の仕事は民間企業も官僚と同様に激務で、どちらのほうが激務かは一概に比較できない。中野氏は次のように説明する。

「どの規模の企業と比較するかの問題である。年収の比較対象としてキャリア官僚の頭にあるのは、東証プライム上場企業と外資系企業だ。東証プライム上場の企業の役員なら年収1億円を超えるが、キャリア官僚には、彼らと同じような労力で同じようなレベルの仕事をしているという思いがある。にもかかわらず事務次官でも年収が2000万円台では低いという評価になる」

 比較対象の設定が妥当かどうかはともかく、現行の給与水準は官僚にとって納得できる水準ではないようだ。離職防止策のひとつに処遇改善が検討されてもよいだろうが、「2022年度公務員白書」が示した離職防止対策には記載されていない。記載されているのは(1)データを活用した組織改善、(2)求められる知識・スキル等の可視化、(3)府省内の職員情報を活用しやすくする環境整備、(4)人事業務プロセス間におけるデータ共有・活用の強化、(5)各府省人事担当部局の体制増強――など月並みな内容だ。中野氏が問うのは大胆な処遇改善である。

「国民や政治家が官僚を人材資源と捉えて、労働条件を改善しようと意識を変えない限り離職に歯止めはかからないが、国民にも政治家にそういう意識はない。とくに官僚の職場環境に責任感を持つ政治家はいないだろう。都合が悪くなれば役所を叩き、官僚を叩き、それといっしょになってマスコミと国民が叩き出すのだから、優秀な人は官僚をめざさなくなっていく。あえていえば、政治家をめざすとか、あわよくば官邸に入って官邸官僚になるなどの野心を持った人なら、優秀な人でも省庁に就職するだろう。ただ、そういう官僚は野心しか持っていない」

 官僚の離職防止策として、何か有効なものはないのか。

「『対策はない』という前提でのお話だが、国民が納得するかどうかはともかく、幹部の年収を相当の高額に引き上げるなど、思い切って労働条件を引き上げたり、省庁で唯一魅力的な制度である海外留学生を拡充したり、民間でもアカデミックな世界でも通用する専門知識を培えると宣伝したりということでしょうか」

 今後も転職市場はますます拡大していく。官僚も人材流動化の波にのまれたと割り切る以外にないのだろうか。
(文=Business Journal編集部)

提供元・Business Journal

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