子育て世帯の負担を軽くし、加速する少子化に歯止めをかけるため、政府は2019年10月から「幼児教育無償化」をスタートします。

これにより、「3歳~5歳までの子ども」と「0歳~2歳までの住民税非課税世帯の子ども」について、幼稚園、保育所、認定こども園の費用が原則として無償化されます。

消費税の引き上げと同じタイミングのため、家計には嬉しいニュース。でも原則としてとあるように、完全な無償化ではない点には注意が必要です。いったいどういうことなのでしょうか。
 

コラムのポイント

・認可保育園は全額無償化されるが、認可外では無償化に上限がある
・高所得者ほど恩恵が大きいことへの反発もある
・「業務の負担が増える」ことを懸念し、現役の幼稚園教諭、保育士は反対している

認可外保育園やベビーシッター利用では、無償化に上限あり

無償化のレベルは、保育の必要性があるかどうかで変わります。

保育の必要性があるとは、就労や病気などで親が子どもを家庭で保育できないと自治体から判断された状態のことをいいます。専業主婦世帯は保育の必要性なしとされます。

少し複雑なので、図にまとめました。
 

▲「幼稚園、保育所、認定子ども園以外の無償化措置の対象範囲等に関する検討会報告書」より筆者作成

保育の必要性があり、認可保育園に通っている場合は、完全に無償化されます。しかし、認可外保育園やベビーシッターなど「認可外保育施設」の利用の場合は月に37,000円、0~2歳は住民税非課税世帯のみ月に42,000円を上限に無償化されることから、一定の負担が生じる可能性があります。

また、幼稚園は保育の必要性の有無にかかわらず、無償化は月に25,700円が上限です。

一方で、専業主婦など保育の必要性がない子どもについては、幼稚園は月に25,700円を上限に無償化されるものの、認可外保育園やベビーシッターを利用しても無償化の対象にはなりません。また、幼児教育無償化には所得制限がないため、高所得者に有利だという批判もあります。認可保育園の保育料は世帯収入に応じて決められているため、高所得世帯ほど多くの保育料を払っています。つまり、無償化の恩恵も大きいのです。

たとえば、月の保育料が50,000円の世帯と10,000円の世帯があるとします。無償化で恩恵を受けるのはどちらかは言うまでもありません。

無償化よりも全入化が先

都市部を中心に待機児童問題が深刻となり、無償化よりも全入化が先決だ、という意見も出ています。

無償化を打ち出すことにより、潜在的な保育需要を掘り起こし、問題を悪化させるリスクがあるためです。

このような中で、保育の質の確保と保育士の待遇改善を願い、全入化を実現するための署名運動も起こっています。

運動をリードする希望するみんなが保育園に入れる社会を目指す会は安倍首相など政府高官に対し、

・無償化は本当に必要とする人から実施してください

・保育士の処遇改善および保育園・保育サービスの質と量の拡充を同時に進め、待機児童を解消してください

という提案をしています。

保育士、幼稚園教諭の7割は「反対」

幼児教育無償化について、現役の保育士、幼稚園教諭はどう思っているのでしょうか。保育や介護の人材紹介業のウェルクスが行った調査によると、なんと7割が反対しています。主な理由には「業務負担の増加」(74.0%)や「保育の質低下」(69.7%)が挙がります。

ただですら人手不足が問題視されている状況で無償化されれば、余計に業務の負担が増えることが予想されます。そのため、無償化よりも大切なこととして「保育士の確保」(82.8%)を望む人が圧倒的に多いのです。

無償化によって「安心して子育てができる」と思えるか

子育てにはお金がかかるので、無償化によって負担が減るのは親として嬉しいです。でも、全入化や保育士の待遇改善が先ではないかと筆者は思っています。

都市部での保育園入園はまさに椅子取りゲーム状態で、子育てをしながら保育園の見学をしたり、書類を役所に提出したりするのは大きな負担です。そうまでしても定員オーバーで入園できない、もしくは保育料が高い認可外を使わざるをえない親もいます。

安心して「子どもを産もう」と思えるよう、保育園入園を希望する子どもがちゃんと入れる環境づくりを優先すべきではないでしょうか。

文・Yuichi Sonobe/提供元・Fledge

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