他の条件が等しければ、消耗戦が長引けば長引くほど、ウクライナはロシアよりも、戦闘の従事できる兵士と人口の数を相対的に減らすことになるので、より敗北に追い込まれることになります。

消耗戦に対する豊かさの影響

戦争を遂行するために必要な兵器は、国家の富に大きく依存します。なぜならば、交戦国の政府は、より豊かであれば、その財力を兵器の生産や購入により多く充てられるからです。つまり、消耗戦の勝敗は、国家の経済力にも大きく依存するということです。

それでは、ロシアとウクライナの豊さは、どうなっているでしょうか。経済力を計る際に最もよく使われるGDP(国内総生産)では、やはりロシアがウクライナを圧倒しています。戦争直前のロシアとウクライナのGDP比は約9対1でした。その後、この不均等な比率は、欧米各国やEU、日本などからの莫大な経済支援がウクライナに実施されているにもかかわらず、さらに高くなってしまいました。

ロビンブルックス氏のXポストより

このグラフは、開戦当時のロシアとウクライナのGDPを100として計算した時系列的な推移です。アメリカの著名なシンクタンクであるブルッキングス研究所で上席研究委員を務めるロビン・ブルックス氏が作成しました。

ここから分かることは、G7諸国から厳しい経済制裁を受けたロシアは、ウクライナ侵攻後もGDPをほぼ堅調に伸ばしていることです。他方、G7諸国などのから多額の経済支援を受けているウクライナは、昨年あたりから少し持ち直したものの、GDPを大きく下げたということです。

現在のウクライナのGDPは、開戦時の約7割程度まで下がっています。現在のロシアとウクライナの経済力の差は、10倍以上に開いてしまったのです。

限定的な探りとしてのクルスク侵攻

ウクライナがロシアの核兵器による抑止の脅しに怯まずに、ロシア領のクルスクに逆侵攻したことは、多くの人々を驚かせました。この事実から、ロシアの核抑止戦略は機能しておらず、破綻していると考える人もいるようですが、それは間違いです。