『娘が母を殺すには』は、1970年代以降の少女漫画や少女小説を通して、日本の母と娘の問題がどうやって描かれてきたかを書いている本です。
1970年代は、日本で女性の作家や漫画家が世に出始めた時代なんですよね。その時代から母子問題が日本の文芸界に出始めたのですが、それがなぜなのかというと、日本のお父さんが長時間労働によって不在となった家では、母と子供だけになったからではないかと。
父親がなかなか家にいないとなると、母親が精神的に厳しいときにケアするのは、息子より話のわかる娘になって、母親は娘に頼りになり、母と娘の共依存関係のようになる。
その結果、母娘関係がこじれやすいという話があるので、長時間労働によって、文化や家庭が犠牲になっていることを書いたつもりですね。
ーーー『娘が母を殺すには』を読んでいて面白いなと思ったのは、現実の話をしているものの、例に出てくるのはフィクションが多かったことです。この形式をとられたのは理由があるのでしょうか。
フィクションは現実の問題を映しやすいんです。
臨床心理士の方とかでしたら現実の例を使って説明する方もいらっしゃると思うんですけど、私はそれよりもフィクションを通した方が理解できる人がたくさんいらっしゃると思っていて。
娘さんとの問題に悩む方のなかにも、娘問題が描かれているフィクションを読むことで、自分 が抱えている問題って自分だけの問題じゃなくて社会の問題だったんだとか、自分以外にもこういう思いをしてる人っていたんだと気づく方がたくさんいるんじゃないかなと思っています。
フィクションで理解してもらうことが、現実で何かを変えるパワーにつながることって、すごくあるんじゃないかと思うんですよ。そういう意味で、今回はフィクションを読み解きながらの批評という形を取りました。
―――それも、(前・中編で語った)新しい文脈に触れることですね。