例えば、2007年、1歳半の息子が流れてきた音楽に合わせて踊る 29秒間のビデオを母親が撮影して、YouTubeにアップした。

“Let’s Go Crazy” #1というタイトルのこの動画は 2017年12月までに190万回もアクセスされたが、この動画に対して楽曲の著作権を管理するユニバーサルミュージック(以下、「ユニバーサル」)がYouTubeに削除するよう求めた。YouTubeは動画を削除後、その旨を母親に通知。通知を受け取った母親が「削除しないでほしい」と要請したので、YouTubeは動画を復活させた。いずれもDMCAに従った手続きである。

同時に母親はユニバーサルの “ 不実の表示 ” によってコンテンツを削除されたとして、ユニバーサルを訴えた。不実の表示とは、「これはフェアユースにあたらない違法コテンツである」と誠意を持って信じた上で削除を要請すること。この表示をした者(ここではユニバーサル)は、それによって損害を受けた者(ここでは母親)に対して損害賠償責任を負わなくてはならない。

2015年、カリフォルニア北連邦地裁は母親の主張を認め、ユニバーサルは削除要請を出す前にフェアユースにあたるかどうかチェックすべきであったとした。権利者にとっては酷なようだが、フェアユースであれば侵害にはならないため、フェアユースかどうか確認せずに、「これはフェアユースにあたらない違法コンテンツである」と誠意を持って信じた旨を記した上で削除要請してしまうと、“ 不実の表示 ”をしてしまうことになる。

表現の自由と著作権の日米比較

下図は拙著「フェアユースは経済を救う デジタル覇権戦争に負けない著作権法」(以下、「フェアユースは経済を救う」)77ページで紹介した表現の自由と著作権の日米比較の図である。

一番大きな円は表現の自由で保護される領域で、2番目に大きな円は表現の自由による保護の例外として 著作権で保護される領域である。