経営を学ぶ人は成功談より失敗談を好んで聞きたいとされます。一方、話す側はあまり失敗談には触れたくないもの。特にその失敗から起死回生の一発でもあれば笑いながら「あの時は大変だった」ぐらいで済まされますが、そうではない場合は2度とほじくり返してもらいたくない話ではあります。

私が20代の時に勤め先で極めて異質の案件を担当していた経験とその過激な失敗はあまりにも衝撃的で3-4年ぐらいは触らないようにしていたのですが、自分の周辺環境も変わり、冷静になって考えてみればあの時の記憶は保存し、小説仕立てでもよいので文章に残しておいてみたいと考え直しました。そこで原稿用紙300枚ほどの実話に基づいた小説を書いたことがあります。

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過激な失敗とは3つの別々の大型不動産事業案件なのですが、先々会社の屋台骨を揺るがす一因になったともされます。その案件はあまりにも特殊で一般社員には扱わせられなかったようで、私と上司の部長と会社のオーナー3人だけの特命部隊、私はさしずめ特命係ですべての実務を担います。1年間で扱ったそれらの不動産がらみの事業総額は数百億円になります。そしてそれらは私が離任後、全部失敗となります。一部の案件はルポライターの書籍に書かれ、一部は週刊誌ネタにもなりました。特殊で一般社員に任せられなかった理由は、失敗する公算が非常に高いのがわかっているのに藁をもつかむ気持ちでやらざるを得なかった案件の特殊性ゆえであります。そこで私は記録に残してみたいと思ったのです。当時ならばジャーナリストが泣いて喜ぶ内容でしょう。今では過去の遺物です。

300ページのその原稿を本格的に書籍化にする段になり、「一応、実話に近い話なので登場人物には了解を得てください」と言われ当時の部長と会い、原稿を見せたところ、了解を得ることができなかったのです。なぜならばその部長はその後、復活するどころか、それらが原因で極めて不遇な余生を過ごしたからです。