では、開業の要件を満たしているという前提で「今すぐ」の独立起業の是非を問えば、多くの場合は時期尚早といえます。
なぜなら、資格を取得し、開業できる要件は揃っていたとしても、それが同時に経営を成立させる根拠にはなっていないからです。つまり、仮に開業条件を満たしたということは「自分の商売を決めた」ことと同じなのです。他業種でたとえるなら、カフェを開く、デザイナー業を始めると決めたに過ぎないということになります。
私はこれまで1,000名を超える士業の方から相談を受けてきました。そして、その中で「食えない」人たちは口を揃えて「経営や営業の準備不足だった」といいます。すなわち、資格を取って開業することで、仕事は取れるものと思い込んでいた、ということです。では、成功している人はどのような手順を踏んで開業したのか考えてみましょう。
知識を蓄え、段階的に開業しよう士業で失敗するパターンは、経営と営業の知識や経験をまったく持たずに開業し、仕事が取れないというものです。
逆にいえば、成功する人のほとんどが、経営や営業経験を持っているか、もしくは開業前に必死に勉強しています。市販されている士業の開業本や独立起業を指南する本のなかには、「勉強する暇があれば、すぐに独立開業しろ。経験がもっとも勉強になる」というものもあります。「経験がもっとも勉強になる」という後者には同意しますが、私の経験上、知識なき経験は非効率です。
成功する士業の形のひとつとしては、開業前にひと通りビジネスについて書籍、セミナーなどで勉強し、自分なりのプランを考えてから開業するというものがあります。もちろん、所詮は机上の空論であり、うまくいかないことも多いでしょう。しかし、知識的な土壌ができているため、ビジネスの修正スピードは知識がない場合にくらべはるかに早いといえます。
私の場合は、会社をリストラされたという事情でやむなく独立開業しながら、必死で経営の勉強をしました。最初は実践と知識の違いに戸惑いましたが、名刺の作り方、チラシの作り方などを学ぶことがなければ、収入が1,000万円を超えるまで倍以上の時間がかかったのではないか思うほどです。