日本では名目GDPだけがGDPであるかのように扱われることがあるが、そんなことはない。もっとも購買力平価GDPのほうが正しいというわけでもない。朝日新聞の記事にあるように、GDPという概念は、第二次世界大戦中に、各国の経済力を統一的な指標で比較する要請が高まったときに「発明」されたものでしかない。比較するための指標が二つあるからと言って、どちらか一方だけが正しいと仮定するわけにはいかない。

ただ、あえて言えば、日本では「名目GDP」だけが参照されることが多く、場合によっては「名目GDP」こそが真のGDPだと信じられている場合もあるが、そこには注意が必要だろう。特に日本の場合、購買力平価で見た場合の方が明らかに相対的経済力が低く見積もられるので、自国を甘く評価しすぎないようにするためには、購買力平価GDPも常にチェックする態度が必要である。

購買力平価で言うと、2023年の段階で、日本の経済力は、インドとロシアよりも下位の世界5位、中国の18%、米国の22%、インドの43%、ロシアの96%である。なお全ての欧州諸国が、さらに下位にしか存在していないことにも、留意しておくべきだろう。

雑駁な傾向としては、名目GDPのランクは、購買力平価GDPのランクを追いかけてくる。後者においてすでに7位、8位につけているブラジルやインドネシアは、将来の経済大国化が約束されている潜在的大国とみなしていい。

もちろん予測は予測、傾向は傾向でしかなく、必然ではない。だがそんなことは、どんな業界のどんな現象にもあてはまる言うまでもないことであろう。ブラジルやインドネシアを潜在的大国とみなすのは、つきつめると、実際にそうなると予言するかの話ではなく、確立論的な観点をふまえると、そうみなすことがとりあえず妥当だ、という話だ。そういう感覚をもって振る舞うことが、国際政治においては大切である。

もっとも確かに、現在のGDPですら、われわれの古い常識からは外れてきているとも言える。将来の展望となると、国際社会の力関係の変動をもたらすことが必至と思われる要素を多々見つけることができる。