4月に発生したシステム障害が原因で、ほぼすべてのチルド食品(冷蔵食品)が2カ月以上にわたり出荷停止になるという事態に見舞われた江崎グリコは今月14日、2024年1~6月期の連結決算を発表し、障害の影響で純利益が前年同期比53%減の36億円となったことがわかった。同社は会見で、全社のIT戦略・運用を統括する責任者であるCIO(最高情報責任者)職を置いていなかったことを明かし、議論を呼んでいる。また、大幅な減益となったことを受け、障害の原因となったプロジェクトの主幹ベンダである外資系コンサルティング会社・デロイト トーマツ コンサルティングの責任を問う声も広まっている。

 グリコは業務システムについて、独SAPのクラウド型ERP「SAP S/4HANA」を使って構築した新システムへ切り替えるプロジェクトを推進してきた。これまで生産・営業・会計など部門ごとで分かれていた古いシステムを統合型システムに置き換えるという大がかりかつ難易度が高い作業だが、旧システムからの切替を行っていた4月3日、障害が発生し、一部業務が停止。その後、一部商品の出荷が停止となり再開されたが、「プッチンプリン」「カフェオーレ」「アーモンド効果」をはじめとする大半のチルド食品は再び出荷停止に。さらにキリンビバレッジから販売を受託している果汁飲料「トロピカーナ」や野菜飲料の出荷も停止するなど、影響は他社にも拡大した。

 その後、順次出荷を再開し、今月13日には人気商品「プッチンプリン」を順次出荷再開すると発表。徐々に正常化に向かいつつあるが、小売チェーン関係者はいう。

「一部のスーパーではプッチンプリンが陳列されていたスペースに他メーカーのプリン商品が陳列されており、棚が侵食されてしまった。これまでプッチンプリンを買っていた客が出荷停止を機に別のプリンを食べて、『こっちのほうが美味しい』と評価してそちらに流れてしまえば、グリコに長期的に及ぼされる影響は小さくはない」

デロイトへの損害賠償請求が検討される可能性も

 今回の障害が同社の業績に与えた影響は大きい。国内チルド食品以外の事業が好調だったため、1~6月期の売上高は前年同期とほぼ同じ1540億円、営業利益は前年同期比10%増の88億円を確保したものの、障害は売上高ベースで150億円、営業利益ベースで36億円の押し下げ要因となった。また、特別損失として56億円を計上し、純利益は同53%減と半減し36億円となった。

 損失はこれだけにとどまらない。4月22日付「日経クロステック」記事によれば、プロジェクトの当初の完了予定は22年12月であったが延期され1年以上の遅れとなり、投資額は当初の予定金額の1.6倍にも膨れ上がっているという。

「プロジェクト遅延や障害の主な原因がグリコ側か主幹ベンダであるデロイト側のどちらにあるのかは分からないが、グリコがデロイトに払う金額は相当大きな額に上ると考えられるので、グリコ社内ではデロイトへの損害賠償請求が検討される可能性もある。今回の件ではデロイトの名前がクローズアップされ、同社の責任を問う声も広まっているだけに、今後、同社の起用に二の足を踏む動きが出るかもしれない。

 ただ、あくまで一般的な話として、全社規模でシステムを見直し再構築するかたちでのERP導入は、多岐にわたる部門の業務フローの整理に加え、大幅な業務フローの変更が必要となる場面が少なくなく、そのような現場にとっては面倒な作業を半ば強制的にトップダウンでやらせる存在が必要だが、果たしてグリコのプロジェクトでは、そのようなポジションの人がいたのかが気になる。システム子会社は本体に対して力関係では弱い立場なので、本体の事業部門から『システムのほうを現行の業務に合わせるべき』などと言われると、負けてしまい、せっかくERPを導入しても高い効果が出ないというケースも珍しくない。グリコにはCIOがいなかったということなので、その点がプロジェクトがうまくいかなかった原因の一つだった可能性も考えられる」(大手SIerのSE)

 グリコをめぐっては障害発生後、「SAP ERP(S/4 HANA含む)」関連のスキルを持ち「グローバル展開を見据えた次期統合認証基盤の企画、設計、構築」を担える高度IT人材を「予定年収500万円~」で募集していることに、「提示年収が低すぎる」と疑問が寄せられる事態も起きていた。

「一般的に企業がシステム部門をシステム子会社として外部に切り出す目的は、非中核業務だととらえて人件費の負担を回避するためなので、自ずとシステム子会社の給与水準は本体よりも低くなる傾向がある。CIOを置いていないという点も踏まえると、グリコの経営陣が、高い報酬を払ってでも高度なIT人材を雇用する重要性を認識していたのか、そしてIT投資の重要性をどこまで認識していたのかは、やや疑問」(同)