「小林製薬はあくまで一般消費者向けの医療品メーカー」

(『小林製薬アイデアをヒットさせる経営-絶えざる創造と革新の追求』小林 一雅 著/PHP研究所 )

そう。小林製薬は、製薬会社の「サラブレッド(=生粋)」ではない。前身は薬卸業者であり、現在は日用品で花王やP&Gと競合する「ハイブリッド(=混合)メーカー」である。

そのハイブリッドメーカーが事業範囲拡大に用いる手法がM&Aだ。自己資本比率80%という安定した財務基盤と余裕資金を活用し、M&A・事業譲受を繰り返す。紅麹事業もその一つ。繊維・アパレルメーカー大手「グンゼ」から2016年に事業譲受したものだ。

グンゼ ウェブサイト 紅麹ベニエットリーフレットより

グンゼから譲受した紅麹

グンゼは、90年代まで経営多角化に取り組んでいた。その一つが紅麹だった。紅麹の持つ健康効果に着目し研究を重ね、健康成分を豊富に含む紅麹を開発。健康食品素材「ベニエット」として販売していた。2013年4月には特許も取得している。

ところが翌年3月、食品安全委員会(内閣府)から紅麹に関する注意喚起が行われる。

「血中のコレステロール値を正常に保つ」としてヨーロッパや日本などで販売されている「紅麹で発酵させた米に由来するサプリメント」の摂取が原因と疑われる健康被害がヨーロッパで報告されています

紅麹を由来とするサプリメントに注意(欧州で注意喚起) | 食品安全委員会

EUは、一部の紅麹菌株が生産する有毒物質「シトリニン」の基準値を設定。フランスは摂取前に医師に相談するように注意喚起。スイスでは紅麹を成分とする製品の売買が禁じられた。

グンゼの紅麹は「シトリニン」を発生させない。だが、紅麹のイメージが悪化し、海外展開が難しくなったのも事実だった。その後、グンゼは「多角化路線」を改め、小林製薬への紅麹事業譲渡を決定する。

多角化路線を改めるグンゼ。事業譲受する小林製薬

一方、小林製薬の事業譲受の目的は「多角化」だった。サプリメントを扱っているとはいえ、「麹」の製造はやったことがない。だが、グンゼのノウハウを獲得すれば、短期間で健康食品事業を補強できる。事業者に原材料として提供することもできる。