謎の解明残る

筆者はアサンジ氏の即時釈放を支持していた。リーク情報の取得関連でアサンジ氏が有罪となれば、リーク情報を基にしたジャーナリズムの存在を否定することにもなりかねない。ジャーナリズムに関わる全ての人、恩恵を受ける市民にとって重大な結果をもたらすだろう。

しかし、機密情報の暴露が正当化されるのは「公益」という大義があってこそだ。

ウィキリークスの行動に疑問符が付いたのは、2016年の米大統領選挙の時だった。ロシアがサイバー攻撃で民主党や同党の候補クリントン陣営から入手した電子メールの内容を入手し、民主党内の不和をあらわにした。

共和党トランプ候補(後の大統領)の対立候補だったクリントン元国務長官に打撃を与えた。果たしてどのような公益があったのか。

ほかにも不可解な点はある。性的暴行容疑は実体のないものだったのか、メガリークのマニング氏と「共謀して機密情報を取得した」(米当局)のは本当なのか。ロシアのサイバー攻撃者たちとのかかわりはどこまで深かったのか。

そして、2010年の最初の逮捕時から釈放時まで、アサンジ氏は自由を奪われた生活をしたが、米当局が国家機密の暴露を問題視するのであれば、メガリーク報道に関わった大手メディアの編集長が罪に問われない理由は何なのか。

釈放までの経緯

米司法省に機密漏えいなど18の罪状で起訴され、アサンジ氏はロンドン南東部にあるベルマーシュ刑務所に収監されていた。

収監はスウェーデンの性犯罪容疑がかけられた際の保釈条件違反がきっかけだが、米当局は起訴の罪状に関連して身柄の移送を求めた。英政府は2022年、同氏の移送を決定したが、アサンジ氏の弁護団は同氏の健康状態や将来、反逆罪やスパイ罪など死刑が適用される罪状で起訴される可能性があるとして移送に抵抗してきた。

今年3月、英高等法院は米政府に対し移送の際はアサンジ氏に言論の自由があることと死刑に処さないことへの保証を要請。翌4月、米国側は上記の保証を確約したものの、5月末、高等法院はアサンジ氏に対し英国に留まって追加の裁判を行うことを認める判断を下した。