人間が同じ人間の肉を食べる「カニバリズム」は野蛮さや蒙昧さの表出であるかのようにもイメージされるが、実際のところカニバリズムは世界中の広い地域で行われてきた長い歴史を持っている。古来より人肉食を実践してきた古代文化をフィーチャーする記事の後編では、カーニバルでの人肉食から殺した敵兵の遺体を食べる習俗など4つの伝統的な人肉食文化を紹介したい。
■シシメ族:メキシコ
シシメ族(Xiximes)は、現在のメキシコ北部の一部に住んでいた先住民族である。彼らは人食いを行っていたことが以前から長い間噂されていたのが、考古学者がそれを証明する有力な証拠を発見したのは近年になってからのことだ。
歴史家は人肉食はシシメ族の複雑な宗教的および文化的信念と深く関係していると確信しており、特に毎年開催される収穫祭のような祝祭と結びついていたことが示唆されている。
トウモロコシの収穫が終わるたびに、村の長老たちは敵対する村から村民たちを狩るために戦士を派遣した。彼らは野原で単独で働く丸腰の農民をターゲットにすることが多かったが、時には他の村の戦士たちと激しい戦闘を繰り広げることもあった。
敵兵を殺した後、彼らはその遺体を村に持ち帰った。遺体が大きすぎて運べない場合は、頭と手だけを持ち帰ることもあったという。持ち帰った遺体は解体され大きな鍋で肉が骨から落ちるまで加熱調理され、その後、肉を豆やトウモロコシと一緒に再度調理して、一種のシチューやスープを作った。
こうして出来た人肉のスープは、夜を徹して行われる祭で消費された。残った骨は来期の作物の植え付けの季節まで保管され、作物の成長を助けてくれる精霊への贈り物として小屋の木や屋根に吊るされた。
この慣習はスペインの征服者が襲来するまで続いた。シシメ族は植民者と戦ったが、最終的には征服されてキリスト教に改宗した。宣教師たちは人食いの話をヨーロッパに報告したが、その話は誇張された“眉唾もの”の話として長く信じられていたという経緯もある。
興味深いことに最近の研究でシシメ族は人肉食行為において外国人嫌悪の要素があることが判明している。つまり彼らは同じエリアの村出身の敵兵だけを食べ、他の先住民部族やヨーロッパからの侵略者などの外国人の遺体を食べることは決してなかったのだ。ひょっとすると人肉であるからこそ好き嫌いが激しくなるのかもしれず興味深い。