東京都知事選の大きな争点にもなっている明治神宮外苑の再開発をめぐり、事業主体の1社である総合商社・伊藤忠商事が“ブチギレ”しているとして話題を呼んでいる。同社は3日付けニュースリリースで、同社の施設が環境活動家に落書きをされたり、株主総会で妨害的行為を行われたと報告。さらに、

<当プロジェクトは、既存樹木を出来る限り守りながら移植や新植もおこない、緑の量をこれまでよりも増やし、より豊かな自然環境を創っていくという計画です>

<当プロジェクトは神宮外苑の「みどりを守る」ために、その資金を捻出する周辺施設建替を行うものです>

<(編注:株主総会で)環境活動家の方が、議長からの論点整理等のお願いにも拘わらず、長々と持論を展開されるという事態も起こりました>

と説明。SNS上では同社の見解に賛同・納得する声も広まっている。同社がこのようなリリースを出すに至った背景には何があるのか。また、同開発プロジェクトは事業者によるものだが、なぜ東京都が批判されているのか。業界関係者の見解を交えて追ってみたい。

神宮球場と秩父宮ラグビー場の建て替えの費用捻出

「神宮外苑地区第一種市街地再開発事業」は、2018年に東京都が策定した「東京 2020大会後の神宮外苑地区のまちづくり指針」に基づくもの。三井不動産、宗教法人明治神宮、独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)、伊藤忠商事の4事業者がコンソーシアムを組み推進し、神宮球場と秩父宮ラグビー場を建て替え、高さ約200メートルのオフィスビル2棟、宿泊施設が入る80メートルの複合ビルを建設する。整備面積は28.4ヘクタールで総事業費は約3490億円、2036年の完成予定となっている。

 批判を浴びているのが、837本を植樹する一方で700本以上の高木を伐採する計画だ。東京都は23年2月に工事の施行を認可したが、ユネスコの諮問機関「イコモス」は再開発の中止を求めて「ヘリテージアラート」と呼ばれる警告を発出。住民からも東京都の施行認可の手続きは違法だとして取り消しなどを求める訴訟が提起されるなど、世論からの反発も強まっていた。これを受け都は23年9月、事業者に対して具体的な樹木の保全方法の見直し案を示すよう要請し、伐採と移植の開始がずれ込んでいる。   「老朽化が激しい神宮球場と秩父宮ラグビー場の所有者はそれぞれ明治神宮、JSCだが、建て替えの費用を捻出するのが難しい。そこで両施設を含む神宮外苑エリア全体を再開発する計画にし、容積率の割増や高さ制限の緩和を行うことで大規模な商業施設の建設を可能にし、民間企業の投資を呼び込むことで神宮球場と秩父宮ラグビー場の建て替え資金を確保するというのが、再開発プロジェクトの根底にある目的。

 反対派は樹木が伐採される点を強調しているが、神宮外苑の膨大な数の樹木を維持するには資金が必要であり、土地の所有者である明治神宮が将来にわたって資金を負担し続けるのは難しい。つまり、現在の規模の緑を維持できない懸念があり、民間投資を呼び込んでエリア全体の経済が活性化すれば資金が生まれ、緑を維持・増加できる可能性もある。また、今回の計画では伐採する本数より植樹する本数のほうが多く、いちょう並木を保存して大きな散策路を整備するとしており、広場や緑地なども整備するとしている。計画通りに進むかは未知数でもあるので、長い目で見て緑の維持・増加という面では再開発をしたほうがよいのか、しないほうがよいのかというのは現時点ではなんともいえない。ただ、何もせずに現状維持のままでは資金不足で緑を維持できない可能性があるので、単に反対して再開発を止めればよいという話でもない」(大手不動産会社社員)