— 大塚耕平 (@kouhei1005mon) August 6, 2024
変動相場制の盲点がフリーランチを生んだ今年1~3月期の成長率がマイナスになったため、今回は日銀は利上げを見送るという見方が強かったが、政策金利を0.25%に上げるサプライズで株安になり、外資が円キャリーで買った米株を売ったためにアメリカも株安になった。
このように外為市場を通じて日本のショックが海外に伝播するのは、変動為替相場の設計から考えるとおかしい。固定為替相場の時代には、たとえばアメリカの金利が下がると投機筋がドルを売って円を買うので、日本は円高を防ぐために金利を下げた。
このように金融政策が外為市場を通じて影響を与えるので、為替レートを変動させ、金利の低い国の通貨が下がるようにしたのが変動相場制である。これによって各国の金融政策は独立し、日本が金融緩和しても他国は自由に金利を設定できる。
ところが円で借りてドルで投資する円キャリーが増えると、日米の金融政策は独立でなくなる。理論的には円キャリーの利益がなくなるまで円が上がるはずだが、最近は逆に日米金利差(実質ベース)が拡大すると円安になっている。
その原因は、アメリカの金利がインフレで上がっているのに対して、日本がゼロ金利から脱却できないため、円キャリーのドル買いが増えたからだ。ヘッジファンドなどは大量の円を借りてドルに投資し、ほとんどフリーランチで巨額の差益を出した。
黒田日銀のばらまいた過剰流動性が世界を混乱させる日銀にとって問題なのは、インフレ目標にこだわって低金利を続けると、円キャリーが増えて円安になるトレードオフである。インフレ目標は日銀にとっては大事だが、国民にはどうでもいい(それに2年以上も超過達成している)。政治家は物価を下げる「物価高対策」を求めている。
この板ばさみになった植田総裁は、9月の自民党総裁選の前に政治的に厄介な利上げをやってしまおうと思ったのではないか。だがこれは国内政治にうとい外資系ファンドには不意討ちとなり、円キャリーの巻き戻しでアメリカ経済に影響を与えてしまった。