NHK受信料は組織運営のための「特殊な負担金」

 広告料収入制度が導入されると、中立な立場の公共放送というNHKのあり方そのものが変わってくるのではないか。前出・水島氏はいう。

「民放放送局も災害時には通常放送を取りやめて災害報道に徹するなど、民放局も公共放送的な役割を担っており、NHKだけが公共的な放送を行っているわけではなく、NHKと民放局が共存することで放送界全体で公共的な放送が担保されるようにしていきましょうというのが、現在の日本の放送界のあり方です。

 各論でいえば、NHKが企業広告を放送することが民放局に対する民業圧迫につながるのではないか、特定の国の意向を強く受ける企業から広告出稿を受けた場合に報道の中立性が守られるのか、といった議論は出てくるかもしれません。ただ、メディアの発信手段が多様化するなかで、放送界全体でどのように公共性を担保していくのか、その放送界の一部であるNHKが収入の多様化をどう図っていくのかという議論はあってもよいでしょう」

 テレビ局関係者はいう。

「国民が自宅にテレビがあるだけでNHKに受信料を支払わなければならないと法律で定められているのは、NHKは公平かつ中立的な立場の公共放送であるという大前提に基づいている。それゆえに法律でNHKは企業広告の放送を禁じられているわけだが、特定の企業の広告によって収入を得ることになると、いくら『公平かつ中立的な立場を維持しますよ』と言っても、ロジックとしてはそれは成立しなくなるので、国民から広く受信料を徴収できるというロジックも崩れることになる」

 別のテレビ局関係者はいう。

「無料の民放テレビ局や有料のネット配信サービスが数多く存在するなか、NHKが国民から半ば強制的に徴収した受信料を元手に、多額の制作費を投下して大河ドラマに代表されるドラマや『紅白歌合戦』などの娯楽番組、バラエティ番組などを数多く制作する必要はなく、民放局との競争が生じるので民業圧迫なのは明らかだ。政治・経済・社会に関するニュースを中立的な立場で放送したり、全国の災害情報などを24時間体制で放送する機関が必要だというのなら、それらの業務に特化したスリムな組織を税金で運営すればよい話で、税金というかたちで全国民から徴収すれば、より公平性が増すし、一人あたり年間数百円程度で済むので受信料よりはるかに安い。

 だが、これはNHKという組織の大幅な縮小、もしくは解体につながるので、当然ながらNHK自身が言い出すはずはない。結局、NHKの目的はその巨大な組織を維持することであり、だからこそ広告料収入制度やスマホ視聴料をはじめ、将来的に収入を得る手段をできるだけ多く確保しようとしている。だが、国民全体の利益を考えれば、目指すべき方向は逆で、できるだけNHKの役割と組織の図体を縮小していくことだ」

 NHKは以前から受信料について「視聴の対価」ではなく組織運営のための「特殊な負担金」であるとの見解を示しており、昨年5月に行われたメディア関係者向けの説明会においても改めて同様の見解を説明している。

(文=Business Journal編集部、協力=水島宏明/上智大学教授)

提供元・Business Journal

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