総務省の有識者会議「公共放送ワーキンググループ(WG)」が、NHKの国際放送で広告料収入の制度を導入する検討を始めた。現行の放送法ではNHKは企業などの広告を放送することは禁止されているが、もし広告料収入制度が導入されれば、中立な立場の公共放送というNHKの位置づけが崩れてしまわないのか、また、国民から広く受信料を徴収するという制度の前提が崩れてしまわないのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。

 NHKは海外向け日本語チャンネル「NHKワールド・プレミアム」で、国内で放送するニュースなどの番組を放送しているほか、NHKラジオ第1放送の番組を海外向けに国内と同時に放送。「NHKワールド JAPAN」では24時間、英語で番組を国内・海外向けに放送(衛星放送、ケーブル局、ウェブサイト、専用アプリなど)。このほか「多言語サービス」としてウェブサイトとアプリで計19の言語で番組を配信しており、繰り返し視聴も可能となっている。

「NHKワールド・プレミアム」は衛星からの直接受信により無料で視聴が可能。「NHKワールド JAPAN」もウェブサイトで無料視聴できる。

 この国際放送に広告料収入の制度を導入する検討が総務省で始まったが、前述のとおり放送法ではNHKは企業などの広告を放送することは禁止されているため、法改正が必要になるとみられる。

NHKの経営は岐路

 NHKの受信契約数は2019年をピークに減少傾向にある。同年12月末は4514万5661件だったが、23年12月末は4431万805件に減少。これに伴い受信料収入と事業収入も減少しており、23年4〜9月期の受信料収入は前年同期比16億円減の3361億円、受信料収入を含む事業収入は同14億円減の3466億円となっている。

 NHKの経営は岐路を迎えている。テレビを持たない世帯の増加も影響してNHK受信料収入は今後も右肩下がりになると予想されており、昨年4月からは、期限内(受信機設置の翌々月の末日)に受信契約を締結しなかったり、不正に受信料を支払わない人に対し、本来の受信料の2倍の割増金を課す制度を開始。その一方、23年10月にはNHK総合とEテレを視聴する「地上契約」、BS1やBSプレミアムなどの衛星放送もセットの「衛星契約」の受信料を約1割値下げした。

 その影響もあり、「NHK経営計画(24~26年度)」では受信料収入は24年度以降も減少して25年度には年6000億円を下回るとしており、24年度から27年度にかけて事業支出を1000億円削減するとしている。具体的には、コンテンツの総量削減などの選択と集中、衛星波・音声波の整理・削減、番組制作費・営業経費の削減などを掲げている。

 受信料をめぐる動きで大きく注目されているのが、スマートフォンやPCでの視聴への課金だ。現在、NHKはネット業務を「任意業務」「実施できる業務」と位置付けており、NHKのテレビ放送内容の「理解増進情報」に限定するとしてきたが、ネット事業を必須業務に格上げする改正放送法が17日、参院本会議で可決、成立。スマートフォンやパソコン(PC)に専用アプリをダウンロードしてIDを取得した人のみから料金を徴収する方針であり、ネット視聴料は地上波契約と同額の月額1,100円になる見通し(地上契約の受信料を払っている人は追加負担なし)。ネット視聴のユーザからも広く視聴料を徴収しようとする姿勢がうかがえる。