フリーランスでも「労働者」と認められる要件
では、どんな基準を満たせば労働者と認められるのか。森崎氏は、昭和60年に当時の労働省(現厚生労働省)が出した「労働基準法研究会報告/労働基準法の『労働者』の判断基準」を示す。現在も労働基準監督署の現場では、この文書で挙げられた基準について、一つひとつの要素を細かくみて総合判断しているという。
この文書では、労働基準法が適用される「労働者」を定義づける、以下の2つの要素を挙げている。
・会社の指揮監督のもとに働いている
・報酬が「賃金」(提供した労務に対するもの)として払われている
つまり、会社組織の一員として、会社の指示通りに労務を提供し、その対価として「賃金」を受け取るのが「労働者」なのだ。具体的には、下の表にまとめた要素を一つひとつ詳しく検討していき、総合的に「労働者」であるかどうかをみていくという。
詳しくは下の表を参照してもらうとして、ここで主な要素を、森崎氏に解説していただこう。
--労基法でいうところの「指揮監督下の労働」とはどのようなことでしょうか。
森崎氏「どのように働くか、いつ働くかを労働者が自分で決められるかです。たとえば、上司に命じられた仕事を、今日ではなく、明日やるよという判断が許されるのかどうかということです」
--それが許されないのが労働者ということでしょうか。
森崎氏「そうです。出勤の義務があり、たとえば9時から5時まで決められた場所で働くことになっていれば労働者性を肯定する要素になります。業務委託とか請負の典型的な契約でいえば、いつ出勤するかは自由です。
よく、ひとり親方のケースが問題になるけれども、労働者ではなく、ひとり親方というのであれば、いつ働くとか、今日は午前中で終了するという判断も自分でできますよね。期日までに仕事が終わればいいのだから、それで問題ない。また、報酬も時給とか日給とかではなくて、一式いくらとなっている。結果、仕事の完成に対して報酬が支払われるのが請負ですから。逆に、請負の契約になっていたとしても、実は時給だったということになると、労働者性の要素が強いということになります」
--報酬の単価があって、その完成品を仕上げたらいくらではなく、日給や時間給で払われるのであれば労働者性が強いと、そこで決まってくるということですね。
森崎氏「そうです。あとはカメラマンの場合ですと、機材・器具は会社のものを使っているのか、それともすべて自分で持ち込んでいるのかというところや、専属性、つまり他社の仕事はできるのかということなども問題になるでしょう」
【労働基準法が適用される「労働者」とは】
・会社の指揮監督のもとに働いている
・報酬が「賃金」(提供した労務に対するもの)として払われている
以上の2つの基準(「使用従属性」)を満たしていることが必要
【使用従属性に関する判断基準 】
(1)「指揮監督下の労働」に関する判断基準
・会社側の具体的な仕事の依頼、業務従事の指示等に対して、拒否する自由はあるか
・業務の内容及び、その進め方について、逐一会社の指示や命令を受けているか
・ふだん行っている自分の専門業務・担当業務以外の業務に従事することがあるか
・会社から、勤務場所及び勤務時間が指定され、管理されているか
・勤務場所・時間の指定が、業務の性質等によるものか、 業務の遂行を指揮命令する必要によるものか
・本人に代わって他の者が労務を提供することが認められているか
・本人が自らの判断によって補助者を使うことが認められているか
(2)報酬の労務対償性に関する判断基準
・報酬が時間給を基礎として計算されるなど、社内で同種の労働をしている者の間で大きな格差はないか
・欠勤した場合に応分の報酬が控除されるか
・残業をした場合には通常の報酬とは別の手当が支給されるか
【「使用従属性」の判断が困難な場合は、以下のような要素も勘案して総合的に判断】
(1)事業者性の有無(労働者性を否定する要素) /本人が所有する機械、器具が著しく高額/同様の業務に従事している正社員と比べて著しく報酬が高額/業務遂行上の損害に対する責任を負う/独自の商号使用が認められている
(2)専属性の程度 (労働者性を肯定する要素)/他社の業務に従事することが制度上制約され、また、時間的余裕がなく事実上困難か/報酬に固定給部分があるか/業務の配分等により事実上固定給となっていて、 その額も生計を維持しうる程度のものである
(3)その他(労働者性を肯定する要素)/①採用、委託等の際の選考過程が正規従業員の採用の場合とほとんど同様である/②報酬について給与所得としての源泉徴収を行っている/③労働保険の適用対象としている/④服務規律を適用している/⑤退職金制度、福利厚生を適用している
※昭和60年「労働基準法研究会報告/労働基準法の「労働者」の判断基準」から主な内容を抜粋