アマゾン配達員に労災認定、画期的な判断…横行する偽装フリーランスに一石
(画像=「Getty Images」より、『Business Journal』より 引用)

 ネット通販大手アマゾンの配達ドライバーとして働く60代の男性が、業務中に負ったけがについて労災認定されたと、都内で4日に開催された記者会見で労働組合が発表した。

 個人事業主は本来、労災の対象外だが、労災申請を受けた労働基準監督署は、男性が指揮命令を受けて働く「労働者」に該当し、補償を受ける権利があると判断した模様だ。

 これまで、アマゾンなどの配達業務の多くは、実態は「雇用」なのに、業務を請け負う形で働く「個人事業主」とされ、労働基準法で保護されない“偽装フリーランス”が問題となっていた。そうしたなかで今回、労基署がアマゾン配達員について、明確に「労働者である」と初めて認定したことで、今後、同種の形態で働く人たちへの影響の大きさは、はかりしれないと関係者は口をそろえる。

 今回のアマゾン配達員の労災認定の背景にある問題を理解するために、偽装フリーランスに関する解説記事を緊急リリースする。

 昨今、偽装フリーランスと呼ばれる問題が注目を集めている。コロナ禍でリモート勤務が普及し、在宅のまま企業と業務委託契約を結んで働くフリーランスが目立ってきた。フリーランスなら会社勤めよりも自由な働き方ができ、がんばり次第では収入アップが見込めるとされるが、その反面、企業にとって都合のいいような条件を押し付けられがちだ。さらに、社会保険加入や有給休暇、残業割増賃金など、労働者なら当然与えられる権利が、ことごとく対象外とされて、本人が気づかないうちに大損しているケースも少なくない。

 もし自分がそのような窮地に立たされたときには、いったいどうすればよいのか。役所に駆け込んでも誰も助けてくれないと思いがちだが、これが意外にも、労働基準監督署に相談することで解決に至るケースが少なくないという。

フリーランスでも実態は「労働者」である“偽装フリーランス”

 そこで今回は、労働基準監督官の経験があり、なおかつ長年、労働組合サイドから労働者の支援を行ってきた全労働省労働組合の元中央執行委員長で、現在は同顧問を務める森崎巌氏に、偽装フリーランスの現状と対処法について詳しく話を聞いた。

--8月22日付朝日新聞デジタル記事で、東京・品川労働基準監督署がフリーカメラマンを「労働者と認定した」と報じられています。月20日勤務で労働時間200時間を超え、しかもキッチリ撮影場所などを決められていて、ほかに仕事を請ける余裕がまったくないということらしいのですが、カメラマンのようにフリーランスが多い職種でも、実際には労働者だったというケースはあるんですね。

森崎氏「このような問題は昔からあって、カメラマンでいえば、『瀬川労災事件』と呼ばれる、急死したフリーカメラマンが労災認定された事件(2002年東京高裁で逆転判決)など、大きな運動に発展したこともあります。そういう過去の事例をみることも大事ですが、それぞれ事情は異なるので、この人は認められたけれど、他の形態で働いていたカメラマンは認められないという可能性もあるんです。一律の基準にあてはめるのではなく、それぞれ個別の要件を詳しくみて、労働者かどうかの認定がなされます」

--法的には、労働者と企業の間に業務委託契約が結ばれていれば、その契約内容が重要になると思いがちですが、違うのでしょうか。

森崎氏「業務委託契約書が作成されていれば、業務契約としてみるひとつの要素にはなります。ですが、重要なのは形式ではなく、実態がどうかなんです。業務委託契約を交わしているけれども、実際の働き方の中身が委託ではなく、これはどう考えても、雇用の関係だということであれば、労働者としてみるんですよ。

 偽装フリーランスは、昔からある根深い問題です。カメラマンとか、助監督とか、いろいろと微妙な立場の人はいっぱいます。そういう方々の働き方は名称にとらわれずに、労働の実態を見て、労働者といえるのかとどうかという、労働者性の判断を監督署はします」

 委託事業者には、労働基準法は適用されない。個人事業主になると、有給休暇はなく、いくら長時間働いても割増残業代ももらえない。最低賃金も適用されない。年金と健保も全額自己負担のうえ、失業したときの生活費を賄える雇用保険もない。だが、労働者と認められれば、それらの権利がさかのぼって認められるのだから、もしものときは知らないと大損だ。