全身もしくは首だけを切断し、冷凍保存

 死体の保存には不凍液のカクテルと液体窒素を使う。契約者が死亡するとクライオニクス会社のスタッフが急行し、埋葬を阻止する(親族がクライオニクス処理の話を理解していない場合が多いのだそうだ)。あるいは事前に連絡を受け、対象者が死亡するまでスタッフが病室で待機する。スタッフが病室に待機することを彼らは「スタンバイ」と呼ぶ。

 患者が死亡するとスタッフは即座に遺体から血液や体液を吸い出し、不凍液と入れ替える。

 不凍液は寒冷地で自動車のラジエータが凍りつかないように、冷却用の水に加えるもので、クライオニクスでもエチレングリコールやプロピレングリコールなど自動車用の不凍液に使われる化学薬品と同じものが使われている。

 なぜ血液を抜いて不凍液と入れ替えるのかと言えば、不凍液と入れ替えないと氷で細胞が破壊されるためだ。遺体をそのまま冷凍すると、体液中の水分で氷ができるため、細胞が氷に内側から押し破られてしまうのだ。血液も凍るので血管が破れてしまう。そのままでは解凍した時に全身で大量出血が起きる。

 不凍液はゆっくりと冷凍することでガラス状に変化するため、細胞を壊さない。液体窒素で冷やされた死体の体液はガラス状になった不凍液で満たされる。

 血液と不凍液の入れ替えはポンプを使って行われ、その後、人体は液体窒素の入ったタンクの中で冷凍される。タンクは魔法瓶のような真空壁を持ち、保温性に優れている。

体を冷凍して未来で解凍”するクライオニクスは詐欺かファンタジーか
(画像=イメージ画像 Created with DALL·E,『TOCANA』より 引用)

 再生には人格が宿っている脳が最重要と考えられているので、遺体は冷凍タンクに頭からさかさまに突っ込まれる。仮に何らかの事故で液体窒素が漏れたとしても、頭が容器の底にあれば、液体窒素がなくなるのは頭が最後になるからだ。

 全身を冷凍するプランと首を切断し、首だけを冷凍するプランがあり、首だけの場合は、当然ながら首を切断して容器に入れることになるため、それが死体損壊にあたるのかどうか、法律のグレーゾーンだ。

 料金はアルコー延命財団とトランスタイム社が1体15万ドル、クラリオラス社が1体2万8000ドルのロシア価格である。

 1967年1月12日に心理学教授ジェームス・ベッドフォードの遺体が冷凍されたのが人類初のクライオニクスだとされている。2018年現在、383人の遺体(首のみの保存も含む)がクライオニクスの処理を受け、復活を待っているという。