今月20日、キリンビールの取手工場(茨城県)で男性作業員がコーンスターチの貯蔵タンクの中で埋もれて死亡する事故が発生。同工場では昨年10月にも作業員の死亡事故が起きており、同社製造現場における安全対策に不備があるのではないかという見方も出ている。業界関係者の見解を交え背景を追ってみたい。

「一番搾り」「氷結」「メルシャン」などのアルコール飲料のほか、「午後の紅茶」「生茶」「ファイア」「キリンレモン」などのソフトドリンク、健康食品などを扱うキリングループ。連結の従業員数は約3万人(23年12月31日現在)、年間連結売上高は2兆円を超える巨大総合食品メーカーだ。

 同グループの主力事業である国内ビール・スピリッツ事業(23年12月期売上高6849億円)の中核を担うのがキリンビールだ。全国に9つの工場を持ち、単体での従業員数は約3500名。23年のビール系飲料市場におけるシェアはアサヒに次いで2位とみられる。今月2日にはビール新商品「キリンビール 晴れ風」を発売。販売が好調で生産が追い付かず一時的に出荷を停止するほどの人気となっている。

作業時の人数・体制が適切であったのか

 そのキリンビールの取手工場で20日、男性作業員が死亡する事故が発生。男性はビール類の原料であるコーンスターチを貯蔵する高さ約10メートル、直径約4メートルのタンク内で清掃作業をしていたところ、姿が見えなくなり、タンク内で埋もれているところを発見されたという。

「コーンスターチは質感が『でん粉』とよく似た粉で、もし仮にタンク内で作業中になんらかの原因で体の上から大量のコーンスターチが覆いかぶさる形になれば、非常に重いので身動きが取れないし、顔がコーンスターチでふさがれれば窒息する恐れがある。もしくはタンク上部の外側から作業中に誤って転落すれば、体が徐々に下に埋もれて窒息したり、内部の高所で作業中に転落して床などに頭を強く打てば死亡する可能性もある。

 今回の件で気になるのが、一般的に危険を伴う作業では2人以上で作業を行い見張り役をつけるが、報道を見る限り発見まで時間がかかっているようなので、作業時の人数・体制が適切であったのかという点。もう一つは、高所など危険な場所での作業時に不可欠な安全帯の装着などの安全対策を行っていたのかという点」(食品メーカー関係者)

 同工場では昨年10月にも作業員の死亡事故が起きている。倉庫の屋根に設置された太陽光パネルの定期点検をしていた作業員が、屋根の一部を踏み抜いて約8.8メートルの高さからアスファルトの地面に転落。安全帯は装着していたものの、一方の端を固定した場所につないでいなかったという。

 気になるのは同じ工場で短期間で2件の死亡事故が発生しているため、安全対策が適切であったのかという点だ。食品メーカー関係者はいう。

「昨年の事故は製造ライン外で起きたもので、かつキリンから委託を受けた外部の業者が起こしたものだが、今回の事故は広義の意味で製造ライン内で起きたものであるという点が大きく異なる。今回の事故で亡くなった作業員の方がキリンの従業員なのか外部の業者の方なのかはわからないが、製造につながるプロセスで死亡事故が起きたという意味は大きい。また、キリンビールほどの大企業で国内にいくつも製造拠点を持つ食品メーカーであっても、約半年で死亡事故が2件も起こるというのは多いという印象で、信用が揺るぎかねない事態といえる。大企業だけに安全対策のマニュアルはしっかり整備されていると考えられるが、現場レベルできちんと実践されていたのか、検証が待たれる」