小林製薬はどこまで補償すべきか

 インターネット上では、小林製薬にたいする誹謗中傷や、「小林製薬は大阪工場を閉鎖したのは、健康被害が出るリスクを鑑みて、証拠隠滅の意図があったのではないか」という噂も囁かれている。

 小林製薬広報IR部にも取材した。同社への誹謗中傷や「大阪工場を閉鎖したのは証拠隠滅のためだ」という噂に対して同社は、「さまざまなご意見に関しまして、真摯に受け止め対応してまいりたいと考えておりますため、個別の事象に対し個別具体的な回答は控えさせて頂きたく存じます」と回答。

 また、紅麹原材料を扱う会社に風評被害が生じていることに対しては、「弊社の紅麹関連製品について、関係の皆様に多大なご心痛、ご不安をおかけしておりますことをお詫び申し上げます」と詫びた。

 同社の小林賞浩社長は3月29日の記者会見で、「小林製薬の原材料を使っていて商品の自主回収にかかった費用や廃棄費用を補償する」と表明している。同社の原材料を使用していない紅麹商品にたいする風評被害や風評被害による自主回収について補償をする選択肢を考慮しているか質問したが、「恐れ入りますが、回答を控えさせて頂きます」と同社は明確な回答を避けた。

 加えて4月26日、小林製薬は医療費などの補償を始めると発表した。小林製薬は紅麹原料を52社に直接卸し、間接的に仕入れた企業を含めると173社にも上る。同社の紅麹原料を使用する企業、健康被害が生じた消費者の治療費の補償だけでも巨額になるだろう。小林製薬は、どこまで補償の範囲を広げる義務があるのか。企業倫理として、どこまで補償すべきか。

 東京都内にある、きさらぎ法律事務所の福本悟弁護士に小林製薬の「補償すべき範囲」について法的見解を聞いた。

「現時点で、小林製薬の紅麹サプリメントの紅麹原料が健康被害の原因と断定されたとの報道は目にいたしません。ましてや、紅麹そのものが健康被害をもたらすものとは、政府すなわち厚生労働省は認定しておりません。

 薬害は、被害との因果関係の証明に時間を要し、製薬会社に法的責任が明確になるのは、民事訴訟などを経て長期化するケースがありますが、責任・原因が確定するまで待つのではなく、これまで企業が自主的に被害の拡大に努めることは社会的責任を果たした面もあります。

 原因の特定前ではあるけれども、取引先、そしてその先のいる消費者国民のため、小林製薬が、『賠償』ではなく『補償』することはひとつの決断と考えます。従って、小林製薬の紅麹原料を使用していないのに、風評被害にあって紅麹商品を自主回収した事業者に対して、小林製薬が『補償』する必要はありません。また、すべきではないと考えます。

 風評被害が起きるのは、虚偽の風説を流布した加害者がいるからです。『毒を販売している』などの風評被害が起きたのだとするなら、それは虚偽の風説を流布したとして業務妨害罪にも該当する違法行為です。

 私たちは、小林製薬の対応のみならず、この事件を報道するメディア、そして政府の説明などにも目を光らせて、『自分の体は自分で守る』と言われるごとく、しっかり調べて判断していく必要があると思います。まずは、国民が冷静になることではないでしょうか」

 原因が特定されないなか、世間は「紅麹は危険」「サプリは危険」などと“悪者探し合戦”をしているが、いずれも科学的根拠はない。健康被害を引き起こした可能性があるとされているのは、小林製薬大阪工場の一部の紅麹原材料のロットにすぎず、それも因果関係は証明されていない。

「全ての紅麹食品が危険」「全てのサプリが危険」というような風潮が収まり、一日も早く健康被害をもたらした原因が科学的に判明されることを望む。

(文=深月ユリア/ジャーナリスト)

提供元・Business Journal

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