「節税」と聞くと多くの人は「何か特別なことをしないといけない」と考えがちです。しかし実は見落としがちな点を見直すだけで節税になります。今回はサラリーマン個人ができる節税策を徹底解説します。節税の基本をしっかり見直せば、税金を低くすることができるかもしれません。

サラリーマンの税金のしくみ

1つの会社に勤めて給料を受け取っているサラリーマンは基本的に確定申告をする必要がありません。会社が毎月のお給料から所得税や住民税を「源泉徴収」という形で天引きして税務署に納付し、毎年12月末の年末調整で従業員の1年間の所得税の精算を行っているからです。会社が行う年末調整が個人の確定申告の代わりのような役目をしています。

しかし年末調整では扱えない医療費控除や雑損控除といった所得額や税額から差し引ける項目がある、あるいは年末調整のときに出し忘れた控除項目があるなら、確定申告をして納め過ぎた税金を取り戻すことができます。つまり「使える控除項目にどれだけ気づけるか」がサラリーマンの節税ポイントです。

ではここから、具体的にサラリーマン向けの節税術についてお伝えしていきます。

節税術1,ふるさと納税

今や多くの国民の知るところとなった「ふるさと納税」をすると節税できます。「お金を送ると返礼品がもらえる」ことで知られていますが、ふるさと納税の本質は地方自治体に対する寄附金です。自分の住む自治体以外の自治体に寄附をすると、実質的に「寄附した金額-2,000円」が所得税と住民税の合計額から差し引かれます。これは所得税では寄附金控除という制度が、住民税では寄附金税額控除という制度があるためです。

ただ、寄附した分を無制限に節税できるわけではありません。所得税での控除は「総所得金額等の4割」、住民税での控除については「基本分は総所得金額等の3割」「特例分は住民税所得割額の2割」と上限が設定されています。今、「ふるさと納税 上限額」で検索をかけると上限額を自動計算してシミュレーションできるポータルサイトがいくつも出てきます。ふるさと納税を行う前に、ポータルサイトでシミュレーションをして上限額の目安を知っておくとよいでしょう。

なお、近年はワンストップ特例制度の登場により、寄附先の自治体に申請をすると、確定申告なしで節税効果を得られるようになりました。ただ、これは1年間における寄附先が5つ以下であるときのみです。さらに、ワンストップ特例を使っても、その後医療費控除などの理由で確定申告するのならば、あらためてふるさと納税分も申告しなくてはなりません。ここで寄付金控除を申告し忘れるとふるさと納税による節税効果は0円になってしまうので気を付けましょう。

節税術2,住宅ローン控除

住宅ローンを組んでマイホームを購入すると、住み始めた年分から住宅ローン控除を受けて節税することができます。サラリーマンは通常、毎年の年末調整で住宅ローン控除の適用を受けるため特別な手続はいらないのですが、適用を受ける最初の年についてだけ、確定申告をしなくてはなりません。

また、住宅ローン控除に関する思い込みについても見直した方がよいでしょう。「新居を購入したサラリーマンなら誰でも受けられる」のが住宅ローン控除の一般的なイメージですが、実際には次のような注意点があります。事前に確認をするとよいでしょう。

・新築・中古物件の購入だけでなく自宅の耐震・省エネ改修やバリアフリー改修でのローンにも使える
・別荘は適用を受けられない
・合計所得金額が3,000万円以下の人だけが受けられる
・住宅取得等資金の贈与税の非課税措置を受けた部分は住宅ローン控除を受けられない
・マイホーム売却の譲渡所得の特例で税金が軽くなっていると住宅ローン控除の対象外

節税術3,生命保険料控除、地震保険控除

生命保険料控除と地震保険料控除も節税策の一つです。生命保険料・介護保険料・個人年金保険料を払うと生命保険料控除として、地震保険を払うと地震保険料控除として、それぞれ所得額から差し引かれます。

ただ、支払った全額がすべて所得額から差し引かれるわけではありません。生命保険料については12万円(新生命保険料分4万円・介護医療分4万円・新個人年金保険料分4万円)、地震保険料は5万円と上限額が決まっています。さらに、差し引かれる金額も性質と支払額に応じて計算しなくてはなりません。つまり、払った分がすべて控除対象になるわけではないのです。

生命保険料と地震保険料で節税をするなら、自分が払っている保険料がどれに該当し上限額がどうなっているのかを意識しておく必要があります。

節税術4,医療費控除

医療費控除はよく知られているサラリーマンの節税策の一つです。ただ、有名な分だけ、制度の内容を正確に理解している人はあまり多くありません。次の点に注意すると、より節税効果が高まります。

注意点1,「10万円超でないと医療費控除ができない」わけではない

よく「医療費が10万円を超えると医療費控除ができる」と言われていますが正しくありません。総所得金額等が200万円未満の人は、医療費の合計額が「総所得金額等×5%」を超えていると医療費控除を受けられます。

注意点2,医療費全額が医療費控除の対象にならない

医療費全額が医療費控除の対象になるわけではありません。所得金額の合計が200万円以上の人は「年間の医療費総額-10万円」が、200万円未満の人は「年間の医療費総額-(総所得金額等×5%)」が医療費控除の対象になります。

注意点3,公共交通機関を使った往復交通費も医療費控除の対象

電車やバスといった公共交通機関を使って通院したならば、その往復交通費も医療費控除の対象です。タクシー代や自家用車のガソリン代は原則医療費控除の対象にはなりませんが、重病などやむを得ない場合はタクシー代を含めてもよいとされています。

注意点4,社会保険診療か自由診療かは関係なく「治療」であればOK

医療費控除は社会保険診療か自由診療かを問いません。あくまでも治療目的であることが大事です。そのため、自由診療となる虫歯治療の一環としての金歯・銀歯の材料代や子供の歯の矯正代、マッサージで治療目的のものは医療費控除の対象となります。

注意点5,その年に支払ったものだけが対象

医療費控除の対象になるのはその年に支払ったものだけが対象です。例えば、2019年に治療を受けたけれど、支払が2020年になったのならば、医療費控除は2020年分で行います。分割払いも同様で、その年に支払いの済んだものだけが医療費控除の対象になります。

注意点6,入院手当金・高額療養費は「その目的の医療費」から差し引くだけでよい

手術や入院をすると生命保険会社からの入院・手術の手当金や高額療養費を受け取ることがあります。こういったお金を受け取ったとき、手術・入院等にかかった医療費の合計額から手当金や高額療養費を差し引いた残額が医療費控除の対象です。

ここでよくある誤解が「医療費のすべてから手当金を引かなくてはならない」というものです。差し引くのはあくまでも手当金や高額療養費の対象となった医療費のみです。

例えば、入院費が10万円で手当金が30万円、他に虫歯の治療や骨折の治療に20万円かかったとします。このとき、手当金はあくまでも入院費にあてられるだけなので入院費は「10万円-30万円=-20万円→0円」と考えます。そして手当金の目的でない他の医療費20万円はそのまま医療費控除として使えるのです。

節税術5,寡婦(寡夫)控除

離婚や死別でシングルになると、寡婦(寡夫)控除が受けられます。ただ、死別か離婚か、所得状況がどうであるか、扶養する子供がいるかいないかで控除額が変わります。また、死別よりも離婚の方がより要件が厳しくなっていること、女性よりも男性の方がより要件が限定的である点にも注意が必要です。

寡婦控除の要件

夫と死別した独身女性が次のいずれかの要件に該当すると「一般の寡婦」として27万円の所得控除が受けられます。

・合計所得金額が500万円以下である
・扶養親族がいる、または総所得金額等が38万円以下の子と同一生計である

また、夫と離婚した独身女性に扶養親族がいる、または総所得金額等が38万円以下の子と生計が一緒であるのならば、このときも一般の寡婦として27万円の所得控除が受けられます。

ただ、こういった一般の寡婦に該当する人でも、次の要件のすべてに該当するならば「特別の寡婦」として35万円の所得控除が受けられます。

・夫と死別または離婚した後も独身である
・合計所得金額が500万円以下である
・扶養親族となる子どもがいる

寡夫控除の要件

妻を亡くした独身男性も次の要件にすべて該当すると27万円の所得控除が受けられます。

・合計所得金額が500万円以下である
・妻と死別または離婚した後も独身である
・総所得金額等が38万円以下の子と同一生計である

節税術6,災害・盗難にあったときの雑損控除

台風や地震などの自然災害に遭ったときや盗難や横領にあったときは、雑損控除で節税することができます。被害にあった金額の一部を所得の合計額から差し引けます。

ただ、雑損控除は昨今知られるようになったばかりで詳しく知っている人はあまりいません。以下の点に注意すると、今後の節税に役立つと思われます。

ポイント1,扶養家族分の損失も申告できる

ほとんどの人は「自分が災害や盗難で損失を受けたら」をイメージしますが、専業主婦(夫)である配偶者や子供などといった扶養親族が災害や盗難で被害にあったらその損失を納税者分として申告することができます。ただ、その扶養している家族の所得の合計が38万円(2020年分以降は48万円)以下であるケースに限ります。家族本人の所得が多いなら、本人に自ら確定申告をしてもらうことになります。

ポイント2,生活に必要な資産が対象

雑損控除というと「昨今の台風や地震の被害により家が破損したときに受けるもの」という印象を持っているかもしれません。実際には生活に必要な資産で被害を受けたら対象になります。車や家財道具も被害にあったら対象です。

ポイント3,差し引けない分は翌年以後3年間繰り越せる

被害額が大きすぎて1年では被害額を差し引けないならば、その損失を翌年以後3年間繰り越して所得額から差し引くことができます。この繰越損失は、その都度確定申告が必要です。

雑損控除の適用を受けるなら、申告書だけではなく被害を受けたことの証明や災害関連で支出した時の領収書も提出しなくてはなりません。今後、台風などの被害があったときに備え、手続きなどを調べておいたほうがよいかもしれません。また、実際に被害にあったら、きちんと画像を撮影しておくとよいでしょう。

節税術7,株取引で損をしたときの損益通算・繰越損失

上場株式の売買取引で損をしたとき、確定申告をすると「損益通算」と「繰越損失」で節税することができます。

まず、上場株式での損失を他の上場株式の売却益や配当益、利子と相殺して損益通算をすれば、源泉徴収されている所得税の還付を受けることができます。さらに、損益通算しきれない損失は翌年以後3年間繰越をし、翌年以後に生じた売却益や配当益、利子と相殺できます。つまり、上場株式の売買で損をしたら、確定申告をすると数年間は節税になる可能性があるのです。

節税術8,扶養控除

共働きの世帯では、16歳以上の子供についての扶養控除をどちらで適用を受けるかで悩むかと思います。結論から言うと「所得額の高い方」で受けるのが正解です。

なぜかというと、所得税は累進課税制度を採用しているからです。累進課税制度では、所得が高ければ高いほど高い税率が適用されます。一方、扶養控除は税額ではなく所得額から差し引かれます。つまり、所得から差し引かれるのは同じ38万円であっても、夫が33%の税率、妻が5%の税率を適用されているなら、夫の節税額は38万円×33%=12万5,400円、妻の節税額は38万円×5%=1万9,000円となり、10万円以上もの差が生じるのです。そのため、適用税率の高い方で所得控除をしたほうがよりお得なのです。

なお、扶養控除以外の所得控除も同じように判断するとメリットが大きいです。医療費控除や雑損控除など、妻か夫のどちらでも受けられる所得控除は、所得の高い方で申告するようにしましょう。

節税術9,iDeCoやNISAを利用する

老後2,000万円問題が気になる現役世代としては、将来に備えて資産運用しつつ節税もしたいところです。この要望に応えてくれるのがiDeCo(個人型確定拠出年金)とNISA(少額投資非課税制度)です。

iDeCoは自ら資産運用をして形成していく老後年金ですが、この運用に向けて拠出した年間の掛金は全額「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象となります。また老後に給付を受けるときも退職所得か公的年金等の雑所得として扱われるため、税金の負担を少なくしてお金を受け取ることができます。

NISAは一定の金額の範囲内で運用した株式や投資信託から得られた売買益や配当益、分配益について一切課税されないという制度です。主だったものとしては、最長5年間で最大600万円まで非課税で投資できるNISAと、最長20年間で最大800万円まで投資できる少額投資向けのつみたてNISAの2つがあります。利益には必ず課税される通常の株式投資に比べ、かなりお得です。

節税で悩んだらどうしたらいい?

節税に悩んだらまず税理士に相談するのも手です。たいていは1時間1万円程度のコストで相談できます。この他、市区町村や税理士会の支部の定期的な無料相談会も利用できます。「いきなり有料はちょっと……」と思う場合は、市区町村の広報をチェックしたり、近くの税理士会の管轄の支部に電話したりするとよいかもしれません。

もっともムダのない節税策は「制度の見落としをなくすこと」「節税目的でよけいな支出をしないこと」の2つです。「自分は要件にあてはまっているのにうっかり見落としていた」というのももったいないのですが、節税に必死になりすぎるとムダな支出をしがちです。お金の余裕がないのにiDeCoに多額の掛金を拠出しても、生活に余裕がなくなって節税効果を実感できません。自分の生活スタイルや将来設計を見直し、等身大の自分に合った節税策を見つけるようにしましょう。

文・MONEY TIMES 編集部

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